精鋭部隊とは

野地:トヨタは今、モビリティサービスの会社になると言っています。自動車製造だけでなく、サービス業になるということですね。それも、他の会社とは違う業種になる、「トヨタという業種」になることを考えているんでしょうね。

:うん。

野地:でも、ほかの自動車会社もサービス業へ向かってますね。

:みんなそうだよ。サービス業になったとしてもトヨタ生産方式は役に立つ。

野地:モノをつくる部署だけのものではない、と。だいたい、販売のカイゼンがそうですから。

:そう。トヨタ生産方式は意識改革だし、全体を変えることなんです。生産方式って名前付けたから、わからなくなっちゃった。

野地:つまり、汎用性がある仕事のやり方なんですね。

:そう。たまたま製造現場で始まって、最初は大野方式だとか、かんばん方式とか言われていた。それで根本さんという品質管理のトップがトヨタ生産方式に名前を統一しようと言った。そのときは大野さんも反対しなかった。それからトヨタ生産方式として広まったけれど、生産だけに通用するシステムじゃないんだ。実際に、僕は病院のカイゼン、物流のカイゼン、いろいろやってます。

野地:そんな分野までカイゼンをやっていることは世間は知りません。

:メディアの人たちは「生産だから、病院のカイゼンは違う」と思っちゃう。学者の人たちもそう。でも、現場に来たら、すぐにわかる話なんだけれどね。

野地:現場に行かないんですかね。

:まあね。

野地:特にカイゼンの現場というのはあんまり見せない。

:いや、見せてもわかんないから。

野地:今日、実は尾上さんがやっているカイゼンの現場を見てきました。現場にいると、生産調査部が何をしてるかよくわかりました。

:野地さんは何度も見てるからですよ。一度や二度じゃわからないでしょうね。

野地:林さんの後のトヨタ生産方式の伝導者は朝倉さん、尾上さんですか?

:うん、朝倉、尾上かな。でも、あいつらちょっと上品すぎるからね。俺に似ちゃったのかなあ(笑)。

野地:いえいえ、林さんも含めて、特に上品じゃないですよ。

:下品?

野地:いえ、そこまで言いません。

 でも、林さんは100歳まで生産現場の指導をやった方がいいです。

:そろそろくたびれてきた(笑)。

野地:問題は朝倉さん、尾上さんの後の人材ですね。

:少しはいますよ。もっともっと大量生産しないとね。ただ、大量生産すると品質がそろわないんで、ここが難しい(笑)。

 大野さんにある会社に放り込まれたとき、ちょっと手に余るから精鋭部隊を送ってくれと、2、3人の応援部隊を欲しいと頼みに来たことがあるんです。

 すると、大野さんから言われました。

 「林、精鋭部隊というのは何か知っとるか?」
 「いえ」
 「あのな、少ない人数でやると精鋭になるんだ」
 「わかりました、今のままでけっこうです」

 結局、ひとりでやるしかなかった。勝てんかったなあ、大野さんには。

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