卵を2個だけ

:赤字会社の生産現場って無駄だらけなんです。無駄をなくせばいい。それで利益は出ます。

 私たちに与えられた条件は人員整理はダメ。クビ切ってはいかん。今の仕事を最低限の人間でやれるようにする。そして、浮いた人間は別の仕事をとってくる。そうすればどこでも黒字になる。

野地:リストラって、そうやればいいんですね。

:そう、絶対に人員整理をしてはいかん。やる気がなくなる。

野地:光洋精工はいい会社だったんですか。

:プライドの高い会社でした。ベアリングではトップクラスだからね。僕も含めて、トヨタに入ったやつが光洋精工を受けても入れてもらえないような優良会社だった。

 ところが、傾いてきたのに、自覚がない。心斎橋の本社に行くと社長室がドーンとあって、奥に寝室まであって、シャワーがあって。

 トヨタの社長室なんて、何にもないですよ。(豊田)章男さんは部室とか言っとるけれど、まさしく体育会の部室みたいな部屋だ。

野地:要するに、赤字家会社の経営者って唯我独尊なんですね。赤字でも立派な部屋で仕事をしている。

:そう、人の話を聞かない。だから、僕ら生産調査部は相手が聞くまで言い続けるんです。

野地:結局どれぐらい行ってたんでしたか? 光洋精工は羽村の東京工場と大阪の国分工場と両方へ行ったんでしたっけ。

:ああ、全部で1年半。

野地:ずっと行きっぱなし。

:時々帰ってきたけど。

野地:その時、名古屋に住んでらしてご家族もいらして。

:そう、僕は単身赴任でした。

野地:下着の洗濯はどうしたんですか?

:あの頃は会社でやっとったね。

野地:光洋精工で。

:うん。洗濯機へ放り込んで。

野地:会社の寮ですか。

:そうですね、研修所みたいなところ。

野地:一人部屋。

:一人でしたね。

野地:食事は。

:大阪の国分にいた時は研修所の食堂だった。東京に行ったときは自炊です。近所の食堂にも飽きたから、「自炊したい」と。そうしたら、お釜とか鍋といろいろ揃えてくれてね。喜んで買い物に行ったんですよ。

野地:都下の羽村でしたね。

:そう。近所のスーパーに行って、卵が10個パックだったから、事情を話して2個だけ売ってくれと言ったんだ(笑)。

野地:カイゼンしろ、と。ジャスト・イン・タイムで卵を買いたい(笑)。

 そしたらね、いや、だめです。最初からパック売りですから、と。だからね、鶏が10個をパックに入れて産むわけじゃないだろうと言って重ねてお願いして(笑)、そうやって2個だけ買ってきて、自分でご飯作って。1年半です。