自動車販売のコーチングをしている大久保政彦氏は新刊『トヨタ物語』を読んで驚いた。「2000年頃に日本で広まったコーチングの手法が、トヨタでは遥か昔から実践されていた」からだ。そして、人材育成の難しさと手応えを語る。販売のプロの読み解き方を『トヨタ物語』の担当編集Sが聞く。その後編。

■重版出来!『トヨタ物語
 トヨタはなぜ強いのか――その本質に迫る巨編ノンフィクション。日経ビジネス連載「トヨタ生産方式を作った男たち」に書下ろしの新章などを加えた圧巻の408ページ、ついに刊行。早くも4刷。日経BP社刊

前編から読む)

現場に入ってコーチングをして、考える営業スタッフを育てる。それが一定の効果を上げたとして、大久保さんが現場を離れた後、また元に戻ってしまうということはないのですか。

大久保政彦(おおくぼ・まさひこ)
株式会社プログレス代表/1965年、東京生まれ。1988年、文教大学人間科学部人間科学科教育学専修卒業。国産、外資系自動車販売会社を経て、2005年人材育成会社設立に参加。旅行、自動車などセールスを中心に人材育成を行う。2016年より現職。現在、メーカー、販社にて営業研修や現場での実践トレーニングを行い、即戦力を育成する。

大久保:それでは困りますので、考える現場を率いるリーダーの育成が重要になります。

どんなことがポイントになりますか。

大久保:簡単ではありません。例えば、トップセールスを店長にした途端、潰れちゃうということが結構起きるんです。

最も営業力がある人が、マネジメント力があるとは限らない。

大久保:『トヨタ物語』に「靴ひもの結び方」の話が出てきますね。

「靴ひもを結ぶことはできるかい? じゃあ、その結び方を口で説明してくれるかい?」(231ページ)。

大久保:自分でできるけれど、伝えるのは難しい。100台、150台と売るトップセールスに、そのやり方を聞いても説明できない。

 面白いもので、トップセールス10人に「何でそんなに売れるんですか」と聞くと、「よく分からない」とほぼ全員が言うんですよ。そして「特別なことはやっていないです」。

それは教えたくないからじゃなくて、何が特別なのかが自分ではよく分からない?

大久保:そう、分かっていないんです。

そんな時はどうするんですか。

大久保:「じゃあ、1カ月、時間をあげるから、自分が成功したと思うところ、うまくいったところをメモしてください」と言います。

 そのメモを読むと、いいことが書いてあるんです。「もう今日は絶対帰さないと思った」とか。

強引ですね(苦笑)。

大久保:もちろん、無理やり買わせるということではないんですよ。お客様の要望をお聞きして、条件に合う車が見つかって、ここは決めるところだ、ということをちゃんと見極めての「絶対帰さない」なんです。

 実は、これがなかなかできない。お客様の話を聞くことは大事ですが、聞くばかりで、せっかく買う気になっているお客様の決断を促せないというパターンが結構多いんです。

なるほど。