なぜ「カネを使わない」のか

河合:そうです。だから新入社員でもできる。新入社員の時はボルトが1個落ちとったら、ボルトを拾えば、それがカイゼン。拾わんでそのまま行ったら滑って転んでケガするかもしれんでしょう。避けてムダ歩行もあるでしょう。だからボルトを拾う。新入社員からそういう意識をさせないとダメです。

野地:確かに他の工場ではゴミ箱の位置なんてずーっと一緒ですね。鉄道の駅でもそう。一度決めたものを変えるのは難しいこと。人は決めたことを変えるのは嫌なことなんですね。

河合:そうです。私が現場へ行って、指導する。どんな言うことを聞くやつでも、変えることにはすごい抵抗がある。どんな不自然な動きでも、慣れてしまうと、それが自分の動きになるからね。そうすると、本人は変えたくないんだ。しかし、第三者から見たら「どうして、あっち行って、こっち行って、こんなに迂回してるんだ」と。こうすればいいじゃないかと言っても、その人にはそれがリズムで、リズムができあがると、人は変えたくないと思っちゃうんです。

野地:河合さんの言うことでもなかなか聞かないんですね。

河合:必要なものを近くに置く、たくさん使うものを近くに置く。これが理想だけど、「いいや、オレはあそこに取りに行かないと気が済まん」という人がおる。でも、実際にやらせて、慣れてくると、「あ、こっちの方がずっといい」。僕らの現場指導はあとで評価される。その場では抵抗される。

野地:大野さんたちもそうだったんですね。

河合:そうそう。

野地:直すのは難しいことじゃないけれど、変えたくない。

河合:難しいことはない。で、話を戻すと、頭のいい人たちがお金を使って難しいカイゼンをすると、どうなるか。

 お金を使ったカイゼンは手直しがきかないんです。金をかけて複雑にしちゃうと手直しにも金がかかる。人間がちょっとやったやつは悪けりゃ戻しゃいい。だから、すぐにやれる。もっと良い方法を考え進化させることもできる。でも、金をかけるとカイゼンにも時間がかかるし、元に戻せない。

野地:河合さんがトヨタに入って一番最初にやったカイゼンってどういうものでしたか?

後編に続く)

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