『トヨタ物語』でも後半に、売る仕組みの話がでてきますよね。いいクルマをつくっても、ちゃんとお客さんのところに届けるところまで整えなければいけない、と。井手さんたちもまず造るだけでなく、売る苦労もあったんですね。

井手:はい、クラフトビールが世の中で認知されていませんでしたから。

キリンもアサヒもサッポロもサントリーもあるし、そこに来てこのクラフトビールってのは値段も高いし、何なんだ、みたいな。

大手の真似をしてもダメでした

井手:売り方も最初は大手さんがやるようなことを真似して、普通に営業に行ったり、POPを飾らせてもらったり、「パンフレット置いてください」「ちょっと飲んでみてください」と店頭でアピールしたり…。

 「大手メーカーの常道」を一通り、一所懸命にやったんですが、まったく売れませんでした。もうやり尽くして、これじゃだめだなと思って、始めたのがお客さんが喜ぶ企画、しかも業界大手がやらないような企画でした。

 たとえば、「よなよなエールを旅に連れて行ったらおもしろいよ。ビールと一緒の写真を撮って送ってください。写真展をやります」とか。

 「このビールっておもしろそうだ」
 「この会社はおもしろいことやってる」

 おもしろい人たちが作っているビールを、ちょっと飲んでみようか、そんな気になってもらう。そこを頭に入れながら純粋にお客さんを喜ばすには何をしたらいいかを突き詰めてやっていったんです。

 製造はおいしさに、とことんこだわる。売る方は大手がやらないことをやる。とにかくお客さんに喜んでもらう。

 結局、車を作るのもビールを造るのもお客さんが喜んでくれて、なんぼです。野地さんは本のなかで「自動車会社が売っているのは車じゃない。移動の自由を売っている」と言っているでしょう。

 僕らもビールではなく、喜びとか楽しみをつくって、売っているんです。ビールもただの喉の渇きを癒すものではなくて、飲んで幸せになったり、楽しくなったり、何かしらその人自身が嬉しくなる幸せの源泉みたいなものです。車もビールもただの工業製品ではない、もっと違う価値を与えるものなんだなあと思いました。