ひとりひとりが変われば文化が変わる

井手さんは「待つ」と心に決めて、それを実行していますが、それができない経営者も多いのでは。

井手:待つことと放置は違います。本書でも、「大野さんは見守ってくれていた」と書いてありますが、待つだけでなく、つねに社員を気にかけて、見守っていなくてはならない。僕自身は経営者でありつつ、ファシリテーターの役割を意識をしていて、全然違う方向に行きそうになってくると、ちょっと整理して、立ち止まって、もう一度、考えてもらうようにしています。そうやって、ちゃんと見てるよ、放置じゃなくてちゃんと見守っているから、安心して決めてごらんよ。最後にうまくいかなかったところに関しての責任は僕がとるからさ、と。

 そういうやり方を実践していって、最初にひとり、しっかり自分で考えられる人を育てる。そんな「ひとり」がだんだん増えてきて、多数になってくると、文化になる。それが10年ぐらい続くと、誰が入ってきても、指示待ちではなく、自分たちで改善をしていく文化ができる。

 トヨタは85年という長い間、ずっと改善している。自動車部門を作って、改善の文化を世界中に広げたのですから、すごいことですよ。徹底具合がやっぱりすごい。

ひとりずつ変わっていくと文化が変わっていく。いい言葉ですね。

井手:まあそうは言ってもまだまだ全然できてないんですよ。できていないし、やっぱりトヨタと比べると、まだまだ僕らは甘いなと。

 あと、ここに書かれているのは現場の物語ですよね。トヨタ生産方式を伝えていくために、協力企業へ行く人々の話が出てきます。最初は冷たく扱われるけど、その場で実績を積んでいって、人と人との信頼を築いていく。仕事って、そこから始まるんです。

 まさにうちの会社がそうなんですよ。一見ムダのように見えるんですけど、ひとりひとりの信頼を勝ち取っていくためのコミニュケーションを丁寧に、現場のひとりひとりと顔をつき合わせてやる。それを続けていくうちに、みんなが心を開いていく。それが強いチーム作りの出発点になる。

 現場の人間が心を開いてくれるのを待てなくて、いきなり難しい議論をしようとしたり、いきなり難しい計画をやらせようとしても、たいていは失敗します。トヨタの人たちが協力企業へ行く時、現場の人たちとコミュニケーションを取り、心を開いてもらうことをすごく重視されているのは大切なこと。自分たちの試行錯誤とも重なって、とても共感しました。

どうしても生産方式と聞くと、単なる仕組みの話と思われて、その仕組みさえ導入すれば同じことができるんじゃないかと捉えられがちです。しかし、野地さんはそこの違いを丁寧に解き明かしている。そのほか、気になったエピソードはありますか。