「君はキルケゴールも読んだことがないのか?」

野地:小山さんと何度か仕事しましたね。いろいろ、勉強になりました。

小山:ああ、そうだ、『企画書は1行』(光文社新書)という本をお書きになったときに、僕、インタビューされましたね。

野地:あれは小山さんのアイディアなんですよ。

柳井:そうなんですか。

小山:そうだ、思い出した、そうですよ。僕、企画書はどうやって書くんですかとインタビューされたときに、企画書はいつも最初のページをめくったときにどれだけのインパクトを与えられるか、相手の魂をわしづかみにするにはどうすればいいかという話をしたんです。

 「お厚いのがお好き?」という昔フジテレビの深夜番組でやっていたのを例に挙げました。それは難しい本をやさしく読み解く番組なんですが、企画書の最初の1行は、「君はキルケゴールも読んだことがないのか?」ってひとこと。それを言ったら、野地さんがとたんに「それだ、本にしましょう」と言って、本になった。

野地:でしたね。今度は「君はトヨタ物語も読んだことがないのか」というキャッチコピーにします。

小山:勢いで、本のタイトルが決まったという例ですね。それでいろんな方に企画の話を聞きにいったんですよね。

 野地 秋元康さんとか。みんな企画の上手な方ばっかりで。勉強になりました。

 そういえばトヨタ生産方式を調べていて、わかったことがあります。「ジャスト・イン・タイム」というのがこの方式の根幹なのですが、なぜ、創業者の豊田喜一郎さんだけがジャスト・イン・タイムという知恵に気づいたか。それはトヨタが繊維産業から出発したからだと、張(富士夫・相談役)さんが教えてくれました。

 ベンツとかヨーロッパの自動車会社ってみんな馬車を作っていたところか出発している。アメリカの自動車会社はフォードみたいに、元は機械工だったとか。どこも在庫を持って、自動車を作っていた。ところが、紡績工場へ行くと、原綿から綿の糸にするまでは一貫生産で、途中に在庫を持っているわけではない。何もなく流れるように作っていく…。豊田喜一郎という人は紡績工場も織機の工場もよく知っていた。だから、ジャスト・イン・タイムを考えついたのだろうって。ああ、たしかにそうだなって思いました。

 そしたらユニクロの柳井さんが、日本の繊維産業は世界一だったから、現場にはものすごく知恵があると言ってました。そして、インドのタタというのも、韓国のサムソンも繊維から始まっている、と。

小山:でも、面白い本ですよね。小説じゃないかというぐらいおもしろいエピソードがたくさん出てくる。

野地:もう自由に書いてますよね。それでいいんだなと思いました。

小山:この後、何かやってみたテーマはあるんですか。このテーマでやりたいとか。

野地:いちおう次のオリンピックの物語は取材を始めています。それこそまた小山さん、柳井さんの知恵をいただきたいぐらいです。あとトヨタの本出してから、ホンダを書かないかとか、ヤマハやらないかとか(笑)、書店員さんから言われました。

柳井:でも、それもおもしろいかもしれない。またいろんなエピソードが隠されてるかもしれないし。