わたしには大きな疑問がありました。自動車会社の経営者のなかで、どうして豊田喜一郎さんだけが「ジャスト・イン・タイム」を思いついたのでしょう?

:ほんとですね。どうしてなんでしょう。

はい。それがいちばん不思議でした。世界中の自動車会社の経営者には優秀な人がたくさんいます。ヘンリー・フォードの伝記を読むと、まさしく天才だとわかる。しかし、ジャスト・イン・タイムに気づいたのは喜一郎さんだけなんです。

紡績工場のライン

豊田喜一郎氏(写真提供:トヨタ)

:実は私もそれを考えたことがあるんです。確信はないけれど、「もしかしたら」という経験はあるんです。生産調査部にいた時に、何年かトヨタ紡織に通ったことがあるんだ。

それはカイゼンの指導ですか。

:ええ。トヨタ紡織は自動車部品もやってましたからね。そっちを見ながら、紡績と織布のラインも見学したのですが、そこで発見したことがある。

 自動車工場はプレス、鋳造、鍛造、塗装、組み立てとラインはそれぞれ別個だし、別棟になっている。ところが、紡績、織布の工場は原綿から糸を紡ぎ、今度は糸が布になっていく。原料から完成品までがひとつの流れとなって作っているのです。まあ、布にするところだけは別棟のケースが多いけれどね。しかし、基本的には原綿から糸まではひとつのラインです。

 つまり紡績工場は中間在庫のないジャスト・イン・タイムで運営しているんですよ。喜一郎社長はその分野の権威でしょう。しかも、毎日、それを見ていた。ひょっとすると、そこから自動車工場でも流れを作ればいい、「ジャスト・イン・タイム」をやればいいと考えたのかもしれません。紡績工場へ行けば流れを自分の目で見ることができます。