ケンタッキー時代の張氏(写真提供:トヨタ)

この本の冒頭にも出てきますけど、ケンタッキー工場が稼働したばかりの頃、ラインを15時間止めたそうですが、あの時、現地の作業者はやはりクビになるんじゃないかとびくびくしていたのでは?

:あれは15時間で済んだから、まだよかったかな。私が覚えているのはまた違う事案です。それは接着剤の問題でした。ボンネットのアウターとインナーをくっつける作業があるのですが、その時に接着剤を使います。あの時、ケンタッキー工場の現場が2種類あった接着剤を間違えて使ったんですよ。それで、間違えたまま、ボンネットが80枚くらい、すーっとラインを流れて行ってしまった。あの時は大騒ぎになりました。

 ラインが止まった後、僕は飛んで行ったんですよ。「何が起きたんだ」と聞いたら、接着剤だという。ピンとくるところがあったから、「瓶を見せろ、どこに置いてあるか見せろ」。見に行くと、同じ形の瓶が同じ棚に2本、並んでいた。瓶の形もラベルもほぼ同じです。誰が見ても間違えるような状況でした。

 それで、指示したんです。置き場所を変えるか、瓶に色を付けるとか。何か変えないと間違えるぞ、と。カイゼンっていうのはそんな小さな話なんです。

全米ナンバーワンに

それで、アメリカ人作業者の反応はどうでしたか。

:担当者は顔面蒼白でしたね。社長のミスター張が現場までやってきた。現場を見た。しかも、社長が瓶の置き方を変えてしまった。そういうカイゼンをしたら、アメリカの工場では現場の人間が責任を取らされてクビになるのがルールだったそうです。

 担当者は「もうだめだ。もうクビになる」と相当、落ち込んだ様子だったようです。

 僕のところに来たから、「どうして、こうなったんだ」と一から訊ねました。すると彼は一生懸命、説明を始める。すべてを聞いた後、僕は言ったんだ。

 「こんなに似た形の瓶だから間違うのは当たり前で、これからはきちっと分けて、容器を変えるぐらいのことをサプライヤーと相談するといい」

 そうしたら、彼は「自分もそれを考えている」という。

 いいじゃないか、ベリーグッドだ、これからもよろしく。そう言ったら、突然、ポロポロと泣き始めたんですよ。あわてたのはこっちの方でした。

 そうやってラインを止めて、トヨタ生産方式を広めていったところ、2年目にケンタッキー工場は全米で品質ナンバーワンの工場になったんです。新参者なのに。それが品質ナンバーワンになって、結果が出たわけです。そのことでガラッと変わりました。現場の人間たちは、トヨタ生産方式をやっていると品質がよくなると実感したんです。