もちろん、一部ではブラジルコストを解消しようという取り組みが始まっている。例えば、冒頭のサントス港では、拡張余地に乏しい従来のサントス港とは別の場所に、新たなプライベート港を作るプロジェクトが進行中だ。

”第2サントス港”計画が進行中

 下の地図にあるように、サントスは入り江に浮かぶ一つの島であり、その“裏側”にも入り江が多数存在している。ブラジルの資源大手ヴァーレや三井物産が出資する物流会社、VLIはその入り江の一つにあったTIPLAMの拡張工事に着手した。

 もともと硫黄の荷下ろし専用の小さな港だったTIPLAM。だが、今回の拡張によってパナマックス級の船舶が停泊可能な4カ所のバース、荷下ろし用のホッパーやベルトコンベヤー、大豆やトウモロコシ、粗糖などを貯蔵する4つの倉庫からなる巨大な港湾設備に生まれ変わる。サントス港のような貨物列車の“滞留”が起きないように、線路もどん詰まりではなくループ状である。

サントス港の奥には入り江がいくつも広がっている
サントス港の奥には入り江がいくつも広がっている
TIPLAMは現在、肥料の原料として用いられる硫黄の荷下ろしに使われている
TIPLAMは現在、肥料の原料として用いられる硫黄の荷下ろしに使われている
急ピッチで工事が進行中
急ピッチで工事が進行中
現在、バースは1カ所だけだが、完成後は4カ所に広がる(資料提供、VLI)
現在、バースは1カ所だけだが、完成後は4カ所に広がる(資料提供、VLI)

 鉄鉱石の生産、販売で世界一の規模を誇るヴァーレ。鉄鉱石を輸送するための鉄道網を持っていたが、2010年に鉄道部門を分離、ファンドや三井物産とともに物流に特化したVLIを設立した。VILはその鉄道網を活用、集荷ターミナルや港湾設備に新たに投資することで、非効率な物流を改善しようと目論む。

 「顧客として見込んでいるのはカーギルやADMのような穀物メジャー。2017年以降、収穫時期に合わせて順次、運用を始める」。VLIのファビアーノ・ロレンツィ・コマーシャル・ディレクターは語る。

 もっとも、こういったインフラ投資の動きはまだ限定的だ。

 ブラジルの投資率(名目GDPに占める公的資本形成の比率)は20%強で中国の45%、インドの29%、インドネシアの33%と比べても低い。ブラジルの投資不足は貧弱なインフラと相まって長年、課題視されてきたが、高金利や政府の規制過多、公的債務などのため投資は盛り上がりに欠けるのが現状だ。

 TIPLAMにしても、ヴァーレというブラジル最強の企業が進めたからこそ許認可手続きがスムーズに進んだ面があり、非効率なお役所仕事が効率化しているわけでは決してない。

“資源の呪い”に悶絶するブラジル

 本来であれば、経済状況がいい時に成長のボトルネックになっている障害を改革すべきだが、言うは易しでいい時ほど抜本的な改革はできないもの。資源に恵まれた国が資源ブームによって近視眼的な政策に陥り、ブームが去った後に取り残されることを指して“資源の呪い”と言われるが、ブラジルはまさに、資源の呪いに悶絶している。

 「ブラジルは何も学ぶことなく無為に時を過ごした。資源高で好調だった過去6-7年の間に、必要なアクションを取らなかったツケが出ている」とトロイホ所長は言う。

 ここでは主にブラジルコストに絞って話を進めたが、ブラジル転落の要因には左派政権の経済失策も当然ある。

 2010年にルラ前大統領の後を継いだジルマ大統領は2014年の再選を目指して、ガソリン代や電気代、水道代などの規制料金を据え置いた。ところが、2015年に規制料金が徐々に上昇、それに引きずられてインフレが加速した。その結果、インフレを退治するために政策金利を上げざるを得ず、ただでさえ減速傾向にある経済をさらに冷やすことにつながった。その意味においても、ブラジルの混乱は自業自得と言える。

 ブラジルコストの解消は遅々として進まず、もの作りの強化など供給サイドの改革も手つかずのまま。豊富な天然資源や2億人の人口を抱えるブラジルの潜在力は疑うまでもないが、未来の大国は未完のままだ。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。