もう1つが中国経済の減速に伴う、中国企業の戦略シフトだ。中でも経済の足を引っ張っている製造業では顕著だ。中国政府は鉄やセメントといった重厚長大産業の過剰生産能力の解消に本腰を入れ始めている。同時に政府は、中国の製造業を重厚長大型や安い人件費を生かした労働集約型から、技術やブランド力を持つ先端型へと転換しようとしている。

 中国企業による海外企業の買収は、国外に成長の余地を求めると同時に、ブランドや技術を獲得する狙いもある。中国化工は昨年にもイタリアのタイヤ大手ピレリの買収を発表している。ピレリは自動車レースの「フォーミュラ・ワン(F1)」にタイヤを供給するなど世界的に知名度が高く、高級車市場では高いシェアを持つ。

米国がシンジェンタ買収にストップかける?

 また最近では、中国の家電大手、海爾集団(ハイアール)による米ゼネラル・エレクトリック(GE)の家電事業買収も話題になった。今回のシンジェンタ買収も同社の持つ遺伝子組み換えなどの先端技術が狙いの1つだったと見られる。

 だが、中国企業が先端技術を持つ海外企業を買収することに対しては懸念もつきまとう。中国化工によるシンジェンタの買収には米国の規制機関などの承認が必要になる。シンジェンタは北米市場でも農薬などで大きなシェアを握っている。米ウォール・ストリート・ジャーナルは、中国化工とシンジェンタの買収は、米国で厳しい審査を受ける可能性があると報じている。

 中国企業が新たな需要とブランドや技術の進化を求めて海外に目を向けるほど、米国との摩擦は広がりそうだ。米国のバラク・オバマ大統領は昨年9月の国連総会の際、これまで大統領が定宿として使ってきたニューヨークの名門ホテル、ウォルドルフ・アストリアに宿泊しなかった。同ホテルが中国企業に買収されたため、セキュリティー上のリスクを考慮したとされる。

 中国とそのほかの新興国の減速や資源価格の下落は、様々な形で企業の戦略にも影響を及ぼしている。中国化工によるシンジェンタ買収もその大きなうねりの中にある。もちろんこのうねりは日本企業にとっても無縁ではない。