家庭の味と料亭の味の違い

高取:プロは「きれいな味」という言葉をよく使いますね。雑味がなくて、味が残らないのがきれいな味。最初は「きれいな味」がどういうものか、よく分からないんです。でも、何度も通って料理をいただきながら、「これが、きれいな味というもの」と教えていただくうちにだんだん分かってきます。

 味確認室のメンバーは18人ほどいますが、私以外は全員、研究所との兼務です。技術者が味覚を磨くことは、商品のおいしさを高める上で非常に重要だと思っているので、私も積極的に彼らをお店に連れて行きます。それぞれのメンバーが、「こういう味について知りたい」という研究テーマを持っているので、テーマと一致するお店が見つかったら声をかけています。

小竹:技術者の方が料理のプロに学ぶことで発見はたくさんありそうですか。

高取:たくさんありますね。そもそも自分が経験した以上のおいしさは作れないと思うので、技術者が様々なおいしさに出会う経験を持つことに価値があります。

 実際に、目の前でプロの包丁仕事を見るだけでも、「なるほど、あんなふうに細かく切ることで味がなじみやすくなるんだ」といった気づきは多い。気づきのポイントは人によって違うので、意見交換をすればさらに学びは深まって、おいしさづくりのアプローチの幅が広がっていきます。

 ただし、プロが作る味をそのまままねすれば素晴らしい商品ができるかというと、決してそうではありません。なぜならプロのお店と家庭の食卓では食べるシチュエーションも素材も違うので、プロの技のエッセンスをいかに食卓版に応用していくかというのが我々の腕の見せどころです。

小竹:お店と食卓の味、一番の違いは何ですか。

高取:違いはいろいろありますが、例えば、日本料理のお店では、料理は一品一品、順番に出てきて、少しずつ味わうものです。けれど家庭の食卓はもっとワイルドですよね。

 熱いものも冷たいものもいっぺんにドーンと出てくることが多いし、最高の状態で出せるとは限りません。そして何よりも大きな違いは、家庭ではおかずとご飯を同時に食べます。

 日本料理では、ご飯とお椀は別々にいただくことが多く、薄めに味付けされたお椀だけをじっくりと味わいます。けれどこれだと、ご飯と一緒に食べるとちょっと物足りない。

小竹:逆に雑味があるほうがご飯と合ったり。

高取:そうなんです。ただし、その足し引きをするにも、「雑味とは何か」が分かっていないと調整できません。

 それと、家庭では「一つの調味料でいくつもの料理に使える」という条件をクリアすることが重視されます。お店では、うどんとそばで同じつゆを使うなんてあり得ないことですが、家庭では1本で済む方が歓迎されるわけです。

 すると、だしや塩分の加減をどういうバランスでまとめるかというチューニング技術が必要になってくる。

 その調整する力のベースとして、本物のおいしさに触れる経験は効いてくるのではないかと思っています。最近は、若手を中心に半年間くらい“修業”するのが慣習化しています。