バイオ肉、日本では受け入れられる?

小竹:倫理面の考察も追いついていかないといけませんよね。バイオ肉の是非などについて。

石川:そうですね。ただバイオ肉など先進的な食に関しては、特に日本人は、テクノロジーアレルギーが強い方なので、期待されているよりも普及しないのでは、というのが私の見方です。

 世代間での価値観の違いもあるでしょう。先述の通り、おいしさの決定要因は多岐に渡るので、テクノロジーの進化だけでは、食の未来は占えないと思っています。

 一方で、例えば低温調理器など分子調理を応用したツールの低価格化が進んで、食卓にどんどん入ってくるようになると、温度のメカニズムに関心を持つ人も増えるはず。食に関心を持つきっかけになると期待しています。

小竹:たしかに入り口にはなっていますね。クックパッドでも、「Anova」というマシンが発売された後に低温調理がブームになった時期がありました。特に男性は機械から入る人が多いようですね。

石川:男性は好きな人が多いですね、きっと。数値化されて、構造が分かるようなこと。

小竹:機械に依存し過ぎるのはいやだけれど、料理を楽しむきっかけにはなっているなと。

石川:要は、すべて機械に任せきりの依存型になるのではなく、「鶏肉がもっとしっとりするには、温度をあと何度下げたらいい?」と自分で工夫して、調整する余地が残せたら、人も技術も一緒に発展していけるのでしょう。

小竹:調理“法”に偏らず、調理“学”を楽しめる余地を残すバランスですね。

石川:おそらく今後は二極化していくでしょう。機械に全部自動化してほしい依存型の人と、自分で工夫しながら料理を楽しみたい自立型の人と。

小竹:介護の場面では、まさにその二極化は進んでいきそうですね。

石川:介護でいうと、どうしても調理のオペレーションに人手がいるので、スケールしないという課題はあると思います。そこに機械が貢献できるようになれば、分子調理はもっと実用に生きていくはずです。災害の現場でも然りです。

小竹:これまで経験に頼ってきた企業も、分子調理を活用することで斬新なイノベーションを生む可能性は高そうですね。

石川:「長く信じられてきた調理の常識」も科学的に解明すると、そうではなかったと分かることもよくあるんです。

小竹:例えば煮物一つとっても、「煮て冷ましたほうが味が染みる」とはよく言われますが……。

石川:あれも科学的に調べてみると、「冷やすから染みる」のではないんです。冷やしている間に時間が経つから染みるんです。つまり味が染みるのに必要なのは、温度の変化ではなく時間です。

小竹:「冷やすと染みる」と思い込んでいる人は多いかもしれません。

石川:そういった「おいしさの理由」を数値で明らかにしていくことで、経験則に頼らない食の発展はどんどん進むと思います。

小竹:ありがとうございます。

小竹メモ

分子調理学によって、今まで経験則に基づいていた料理がどんどん科学的に解明されはじめました。料理が「便利」を超えたその先へ向かうために、どのようにテクノロジーが活用されていくのか、先生のお話を聞きながら、少しだけ見えてきたように感じました。介護の分野、災害の分野から始めている先生の研究は、これから、どのように私たちの生活を変えていくのか。考えるきっかけをいただきました。