調理での失敗が減ると、チャレンジ精神も失われる?

小竹:先生の著書の中でも、「なぜおにぎりはおいしいのか」という理由を、不均一な形状の米粒と、その間に含まれる空気の関係性で解説していましたね。「人の手で握ると美味しいのは、この“不均一性”なんだ!」と納得しました。

 おいしさを科学的に解き明かすと、すごく面白いですね。介護の分野での応用に関して、分子調理に一番期待されているのはどういう点だと思いますか。

石川:やはり食感ですね。介護食は、要介護のレベルに応じて食材の硬さや粘度が決まってくるので、その綿密なコントロールに分子調理が寄与する部分は大きいと思います。加えて見た目や香りの開発も。

 高齢になると嗅覚も弱っている場合が多いので、意識的に強める工夫もあっていいと思います。

 「飽き」の防止としては、やはり「食感の不均一性」は重要です。

 丸ごとミキサーにかけると食感がすべて均一になって飽きやすくなるんです。具材なしのゼリーはすぐに食べ飽きますよね。その意味で、お米はそしゃくしていくと、味や食感がどんどん変わっていくので、飽きにくい食材の代表格。食感のバリエーションを豊かにする研究はもっと進むといいですね。

小竹:最新の調理テクノロジーの傾向を見ていると、「料理で失敗しないための技術」が増えているように感じています。

 動画を見て、言われた通りに操作するだけで絶品料理ができるというような。

 石川先生の言葉、「調理道具には消え去ったものが多い。調理の歴史は、失敗の歴史」という言葉にハッとしたのですが、最新の調理テクノロジーの傾向を見ていると「料理で失敗しないための技術」が増えているように感じます。

 もちろん失敗せずに料理ができるのはとても大切なことですが、料理の腕が上がる、料理が上手になるという実感は、失敗から学ぶ、つまり試行錯誤というプロセスが必要だとも思います。

 そしてこれからはそのプロセスを楽しむテクノロジーが何か、そしてそれが埋め込まれたものが生まれてくる。テクノロジーは人間を退化させるのではなく、進化に導いてもらいたい。そう感じます。

石川:「便利」が失敗の機会を奪いつつある、というのは私も感じています。

 思うに、調理の失敗というのは、日常生活の中で、最もささやかで身近な失敗じゃないかと思うんです。その機会が失われると、いろんな場面でチャレンジしようという気持ちが育たなくなってしまうかもしれません。失敗するチャンスを与える、という大きな役割が、調理には本来的にあるという気がします。