1997年の創業から21年、日本の家庭の食卓文化をリードしてきた“フードテック”の老舗、クックパッド。その初期メンバーであり、現在も同社のブランディング部門を率いる小竹貴子氏が、気になるフードビジネスの新芽をピックアップし、現場を訪ねる

(取材/2018年6月15日、構成/宮本恵理子)

 食卓の未来をつくる新たな発想や技術の発展に注目する小竹貴子さんが訪れたのは、2018年6月15日に開催された「テクノロジーNEXT2018」(日経BP社主催)の会場だ。医療、建設、金融、都市開発など様々な業界で期待される技術開発に関する最新動向がスピーチされる場に、今回は食産業分野のテクノロジー「フードテック」に関するプログラムも組まれていた。

 なぜ今、食のイノベーションが注目され、どこに向かおうとしているのか。 企業・行政・学術の分野からスピーカーが集まった。

 最初に登壇したのは、シグマシクス ディレクター(Smart Kitchen Summit Japan主宰)の田中広隆さん。米国や欧州で進んでいるフードテックの流れについて解説した。実際に海外まで足を運んでつかんだ最新情報を聞いた小竹さんは、フードテックのトレンドに変化の兆しを見たという。

 「これまでは“アイデア先行”“技術先行型”のフードテックが話題になることが多かった中で、食を再定義し、新しい価値を生み出そうとする“課題解決型”のものが増えつつあるというのが印象的」(小竹さん)

 例えば、レシピに連動して自動で温度調整してくれるフライパン、「HestanCue」(米)は自宅にいながらレストランのような料理を簡単に作れるサービス。「この技術の先には“料理の楽しみ”がある。『人は何のために料理をし、食卓を囲むのか?』といった原点にまで立ち返って、モノづくりをしようとするトレンドを感じた。『とにかく便利で時短になればいい』というステージから、より深く歩を進めている」(小竹さん)。

 ほかにも官民連携を進める農林水産省の若手官僚、北口善教さん(食料産業局 輸出促進課)、有名シェフのレシピをデジタル化してインターネット上で共有・研鑽(けんさん)を進める「食のオープンソース」を推進する宮田人司さん(オープンソースCEO兼クリエイティブ・ディレクター)、当連載にも登場したパナソニック アプライアンス社 Game Changer Catapult代表の深田昌則さんらが登場。

 中でも、小竹さんが学術分野で最も注目しているというのが、宮城大学食産業学群教授の石川伸一さんだ。

 「分子調理学」について研究する第一人者として知られ、著書『料理と科学とのおいしい出会い』(化学同人)では、物理学や化学、生物学、工学などのサイエンスと食材・調理の組み合わせによって生まれる食の進化と可能性について紹介している。

 イベント当日の講演でも、身近な食材、「餡」を例にとって、「見た目の色が濃く艶やかでありながら、舌触りがサラッと滑らかな餡を作ることの難しさ」を、電子顕微鏡で見える細胞レベルで解説した。分子レベルの研究が進むことで、どんな食材でも瞬時にムース状に変えられる器具や、火を使わずに食材を加工できる超高圧加工技術が続々と生まれている。

 一方で、「人類史の流れの中で、何千年と時が経っても変わらない調理作業は存在する」と石川さんは語る。

 例えば、硬いものをすりつぶす作業。紀元前の壁画に残る石臼で粉を引く作業と、現代のすり鉢でゴマをする作業は、根本的に何も変わらない。また料理人に「一番大事な調理道具は?」と聞くと「包丁」と答える人は多い。「割烹」の「割」は「切る」、「烹」は「煮る」という意味であり、料理とは「切って、加熱する」に集約される。ユニークな調理器具は日々生まれるが、過去の歴史も含めての長い時間軸で捉えると、“本当に必要な調理器具の本質”は見えてくるという。

 日進月歩のフードテックが食卓に浸透していくには、「安全・安心」の担保がカギになる。

 「食の心理学の分野で、“食物新規性恐怖”というものがあって、人は本能的に『見たことがない、食べたことがないもの』を口にすることに心理的不安を覚える。スマホがアップデートされたら迷わず買いたくなるのと同じようにはいかないハードルがあることを前提に、それをいかに乗り越えていけるかが、食の発展には不可欠だろう」(小竹さん)。

 産学連携を進めるには、調理室と実験室が一体化したようなラボの充実がプラスに働くはずと、石川さんは期待する。講演後、さらに話を聞こうと、小竹さんはインタビューを行なった。