米の消費量に連動して、鰹節の消費も減ってきた

高津:残念ながら減っています。金額と量ともに減っている。鰹節に限らず、味噌やしょうゆもそうですが、米の消費量と連動しているんです。つまり、家庭で3食とも和食を食べる環境ではなくなってきたという背景が、とても大きいと思います。

 ただし「だしパック」は伸びています。他社も頑張っていますが、ちょっとこだわりのある食材を使っただしパックも人気ですね。

小竹:「鰹節からだしをひく」習慣はやはり減っているのですね。自宅でパンをつくる人は多いのに、だしをひく人はなかなか増えない。本当はすごく簡単なのに。

高津:水と鰹節の分量比率さえ守れば、沸騰させたお湯にパッと入れて、火を止めて下に沈ませてこすだけ。1~2分でできますから、カップラーメンよりも早いです。

小竹:私もかつては顆粒だしを使っていたこともありますが、鰹節から引いたばかりのだしのおいしさを知ってからは、もう戻れなくなりました。思ったよりもずっと簡単ですから、今ではキッチンの定位置に削り器を置いて、ほぼ毎日使っています。

高津:私たちも、新しい売り方の挑戦を始めたばかりです。つゆの売上割合は多いのですが、鰹節はスーパーの棚で、まだまだ商品を置いてもらえていないのが現状です。ダイレクトに売る戦略としても、直営店を強化しています。1杯100円のテースティングをきっかけに、鰹節を手に取ってみるタッチポイントをつくれればと思っています。

小竹:ブランディングとしても、だしを重要な主力商品として位置付けているんですね。

高津:あえて「にんべん」は前面に出さず、「だし場」という変わった切り口から興味を持ってもらおうと考えました。

小竹:つゆという盤石な商品があるのに、あえて削ぎ落としてだしを訴求しているのですね。

高津:思い切って削ぎ落としてみたら、お客さんが来てくださった。開店前は、「ただのだしでは喜ばれないんじゃないか」という不安もあって、フルーツフレーバーとかも試作しました。けれど、どうもまずくて(笑)。「もう時間がない! シンプルにだしだけで出そう」と腹をくくったら、それが新鮮だったようです。自宅で簡単につくれるだしに100円も払って列をなしてくれる。驚きました。

小竹:それほど、多くの人にとっては未体験のものだったのですね。

高津:それは大きな発見でした。

小竹:「ちょっとこだわった食材を使っただしパックが人気」とのことですが、消費者の味覚が変わってきているのでしょうか。

高津:食のグローバル化というか、日本のうま味だけでなく、世界のうま味を知る機会が増えていることが、味覚に影響を与えているのかもしれません。どちらかというと、消費者の好みは脂のうま味の方に向かっている気がします。

小竹:日仏でレストラン経営をするシェフの松嶋啓介さんも、「脳がすぐに喜ぶアッパー系のうま味と、じわりと体に効いてくるダウナー系のうま味がある」という話をよくしています。だしから得られるうまみはどちらかというと後者に近いのだ、と。

 香りの話が出ましたが、やはりこの独特の香りがだしの魅力ですね。

 

 先日、フランスを旅行して美術館を巡ったんですが、画家の生涯に合わせて香りの演出をしている美術館がありました。五感でアートを楽しめて、とても豊かな時間でした。先ほど、だし場で香りを楽しみながら、パリの美術館での体験を思い出していました。

高津:やはり五感に訴える仕掛けは大事なのだと思います。ニューヨークでだしの試飲を実施した時も、「味はないけれど香りはスモーキーでいい」という声をもらったりして好反応でした。

小竹:パスタとか和食以外にも合います。2年ほど前、個人活動として、保育園や学校でだしのワークショップを開始しました。だしだけの味を初めて体験した子どもたちはみんな、「おいしい!」と言うんです。「こんなにおいしいスープ、おうちでも飲みたいからママにつくり方を教えて」と。

 大人はだしを「懐かしい味」と表現することが多いですが、子どもたちにとってはストレートに「おいしい味」なんだと感動しました。個人の活動だったので、今は中断していますが、将来引退したらまたやろうかな、と思っています。

高津:引退後といわず、クックパッドで試してみてはいかがですか。そういえば、クックパッドに投稿されるレシピの中に、ずばり、だしのレシピはあるのでしょうか。

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