1997年の創業から21年、日本の家庭の食卓文化をリードしてきた“フードテック”の老舗、クックパッド。その初期メンバーであり、現在も同社のブランディング部門を率いる小竹貴子氏が、気になるフードビジネスの新芽をピックアップし、現場を訪ねる。連載8回目は、1699年創業の老舗の鰹節とだし製品の専門メーカー、にんべん。最近では体験型店舗や海外戦略など、日本の食文化を代表する「だし」を幅広い客層に広めようと積極的な展開に乗り出している。だしの可能性を探った。今回はその前編。

(取材/2018年5月6日、構成/宮本恵理子)

にんべん 代表取締役社長の高津克幸さん(写真:竹井俊晴、ほかも同じ)
にんべん 代表取締役社長の高津克幸さん(写真:竹井俊晴、ほかも同じ)

小竹貴子氏(以下、小竹):今日は、商業施設「コレド室町」の一角にある「にんべん日本橋本店」に来ています。店に入る前から、おいしそうなだしの香りがしています。

 にんべんといえば、1699年創業の老舗の鰹節とだし製品の専門メーカー。ここでは商品を売る以外に、どんな体験を提供しているのでしょうか。

高津克幸氏(以下、高津):プロの削り師による本枯鰹節削りを実演するなど、鰹節ができるまでのプロセスをご覧いただいたり、様々な種類の鰹節の違いに触れていただいたりするなど、体験型店舗としてスタートしました。中でも特徴的なのは、こちらの「だし場」。「場」と「bar」をかけて、本物のだしを気軽に味わうためのテースティングバーです。

小竹:早速、いただいてみます。シンプルにだしだけの味なんですね。テーブルに置いてある塩と醤油で好みに調味して。そもそも、味噌汁やおすましの味は知っていても、だしだけの味は知らない人は案外多いと思います。新鮮な体験として楽しめそうです。

高津:始めてみると好評で、2018年3月までに累計85万杯を提供しています。

 けれど始める前は半信半疑でした。1杯につき100円で提供することに対しても、「お金をいただいていいのか」という声が社内で挙がりました。そもそも、だしをコンセプトにした常設店舗はほかにありません。商業施設側からも、「香りを出しすぎないように気を付けてください」と言われて、天井に消臭機器を取り付けたくらいで。

小竹:このホッとする香りが人を呼び込んでいるように思えますが。

高津:オープンしてからは、「いくらでも香り出してください」と言われました(笑)。

小竹:来店客の年齢層も幅広そうです。

高津:もともと私たちの顧客層は年配の人が多かったのですが、「だし場」をオープンしてからは、30代や40代など、従来よりも若い層が来店するようになりました。

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