名前さえ書けなかった人が、書く力を取り戻した

小竹:「食」はコミュニケーションを広げますね。いつも思うのですが、料理はとても、理にかなっているんです。五感を使いながら、心身の機能を保持できて、かつ、おいしくお腹を満たすことができる。その過程で、家族や友達との会話も豊かになる。同時にいくつものソリューションをもたらす素晴らしいものなのだと、改めて感じました。

 ほかにも、利用者の変化として印象深いことはありますか。

神永:座学のレクチャーでは、用紙をお渡ししてレシピのメモを取ってもらっているんですが、最初は自分の名前さえ書けなかった人が、文字を書く力を取り戻していきます。ご家族も驚かれますね。これが実際のビフォーアフターの一例です。

小竹:失いかけていた機能を、様々な形で取り戻していくんですね。話をうかがうにつれ、期待以上のインパクトだなと感動しています。これまでのデイサービスのイメージを壊す斬新な試みだと思うのですが、神永さんはもともと介護業界出身なのでしょうか。

神永:いえ。私はもともと、リクルートで総務や人事を経験した後、『じゃらん』や『フロム・エー』の編集に携わり、グッドウィル・グループに転職しました。コムスンの買収を機に介護事業に関わるようになりましたが、介護業界に詳しかったわけではありません。香港でレストランの立ち上げを担当していたこともありました。

小竹:介護業界に深く染まっていたわけでないからこそ、新しいサービスを設計することができたのでしょうね。こんなに楽しいデイサービスが広がっていったら、老後の希望が持てる気がします。今後も店舗は増やす計画でしょうか。

神永:条件の合う物件さえ出てくれば広げていきたいと考えています。

小竹:利用料は介護保険が適用されるとのことですが、実際にはどのくらいの負担になるのでしょうか。

神永:介護度や収入条件などで負担割合は変わるのですが、目安として、要介護1の人が週2回、月に計8回利用した場合の1割負担月額料金は、1万9500円程度です。

小竹:いい食材を集めるために材料費などのコストもかかりますよね。その分、価格帯は高くなっていると思うのですが、それに見合う価値を感じているリピーターの人も多いということですね。事業としては最初から順調だったんでしょうか。

神永:いえ。業界初の試みでしたから、ケアマネジャーやご家族から理解を示されず、利用者を集められない時期がしばらく続きました。「料理なんてできっこない」と思われていたんです。

 でも、実際にやってみると良かったという反応を少しずつ得られるようになって、成功事例が出てきてから好転していきました。