料理で五感を刺激して、脳を活性化する

小竹:改めて、作業療法としての料理の効用について教えてください。

神永:料理には、「食材を切る」「皮をむく」「量を測る」「盛り付ける」「出来上がりまでの時間を考えながら配膳する」といった、体の様々な機能を刺激する活動がたくさん含まれます。

 また食材の見た目の鮮やかさや触感、香りなど、五感を刺激することで、脳が活性化し、認知機能の改善につながることが、京都教育大学の湯川夏子准教授らの研究でも分かっています。

小竹:確かに料理は、同時にいくつもの作業をしたりするなど、脳がフル回転する活動です。実際の調理風景を見て、また驚きました。「介護事業の一貫としての料理」という先入観から、クッキングといっても、そのほとんどを講師が担って、ごく簡単な作業だけを利用者が担うのかなと予想していたのですが、皆さん自分で包丁を持ち、普通に調理していますね。

神永:皆さん、もとは主婦として料理をしていた人ばかりです。ですから、思い出しさえすれば、すぐにできるんです。ご家族から調理を止められて、10年以上台所に立っていなかったという人が多いので、最初はおそるおそるなのですが、講師が目の前で見本を見せるだけで、すぐに手が動くようになる人が多いですよ。

 定期的に“成果発表”として、ご家族にも見学に来ていただくのですが、「うちではずっとテレビの前で座っているのに、ここでは1時間立ちっぱなしでキビキビと動いている姿を見てビックリした」と驚かれることもよくあります。

小竹:作業分担は、要介護度のレベルに応じてグループ分けしているようですね。

神永:はい。実は、身につけていただくエプロンの色によって分けていて、スタッフが把握できるようにしています。その日の参加状況から個人の目標設定や注意点を事前に確認して、「今日は赤色のエプロンの人は、歩行に気をつけてください」など共有しています。

小竹:なるほど。カラフルなエプロンにそんな秘密があったのですね。空間の設計上、機能回復のために工夫されていることはあるんでしょうか。

神永:あります。一般的な料理教室ですと、4~6人用の調理台とシンクが一体化したアイランドキッチンが数台並べて置かれて、グループごとに調理する場合が多いと思います。けれどもここでは、大きなドーナツ状に調理台を設置していて、皆さんがドーナツの周りを移動しながらクッキングをするスタイルにしています。

 調理の前に手を洗浄する洗い場を、あえて部屋の奥に置いて、移動による歩行訓練ができるように動線を工夫することで、自然と運動機能が鍛えられるリハビリになるようにしています。

小竹:面白いですね。よく見ると気づきましたが、手すりがどこにもありません。

神永:そうなんです。調理台の高さを工夫して、手すりがなくても調理台の端に手を添えれば、安定して歩行できるように設計しています。家庭でも、キッチンに手すりを付けることはないですよね。食事をするためのテーブルやイスも福祉用品ではなく、一般の家具から選んでいます。できるだけ、自然な暮らしに近い環境で機能訓練をしていただいています。