1997年の創業から21年、日本の家庭の食卓文化をリードしてきた“フードテック”の老舗、クックパッド。その初期メンバーであり、現在も同社のブランディング部門を率いる小竹貴子氏が、気になるフードビジネスの新芽をピックアップし、現場を訪ねる。連載6回目はベースフード。2016年に創業したばかりの同社は、1食で1日に必要な栄養素の3分の1を摂取できるパスタ「BASE PASTA」を販売している。食の分野では、「完全栄養食」が最近の1つのトレンドだが、果たして「BASE PASTA」は日本人の食生活をどのように変える可能性を秘めているのか。話を聞いた。今回はその前編。

 

(取材/2018年2月8日、構成/宮本恵理子)

 
 
ベースフードの橋本舜社長(写真:竹井俊晴、ほかも同じ)
ベースフードの橋本舜社長(写真:竹井俊晴、ほかも同じ)

小竹貴子氏(以下、小竹):1食で1日に必要な栄養素の3分の1が摂取できるという“完全栄養パスタ”の事業について知ったのは、2017年夏に参加したイベントで、ブースを出していて、そこで簡単にお話を伺った時のことでした。

 実はそれまで、私はいわゆる“完全栄養食”に対して、まだ頭の中で理解しきれていませんでした。料理を効率的に済ませるのはとても便利でいいことだけれど、それだけを目指していいのか、という課題意識が常にあるんです。

 クックパッドの理念もそうですが、一番大切にしたいのは料理を“楽しく”感じられること。食を通じて豊かになる生活を目指すには欠かせない視点だと思っています。その点、橋本さんの作った「BASE PASTA(ベース パスタ)」は、料理から遠のいていた人を料理に近づける橋渡しの役割を果たすのではないかと期待しています。

橋本舜社長(以下、橋本):注目していただいて嬉しいです。小竹さんがおっしゃるように、「奥さんが料理をしなくなったら俺は死んでしまうんじゃないか」と不安になるくらい料理をしてこなかった男性にも使ってほしいと思って、作った商品です。僕の父親がまさに対象イメージでした。

小竹:「料理=女性の家事の一つ」という既成概念を外していきたいと、私も思っています。まずは「BASE PASTA」が生まれた経緯から教えてください。

橋本:僕は元々、大学を卒業した後、新卒でDeNA というIT企業に入り、スマートフォン向けのサービスをつくる新規事業を担当していました。非常に働きがいのある業務で、一生懸命仕事に打ち込んでいました。

小竹:橋本さんはお若いんですよね。今、おいくつですか。

橋本:29歳です。

小竹:20代の男性が、“食のスタートアップ”に挑戦しているというだけでも、私は嬉しいですね。

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