「人生をより良くするものなら、何でも出したい」

小竹:「食」にまつわる商品やサービスで、より感性が求められる時代になっています。そこで企業として課題となるのが、感性、クリエーティブな部分の伝達・共有・継承です。例えば、「ジャジャーン!」という音を、「こっちじゃなくて、この音だよね」と決められる組織になれるかどうか。

木下:その点はとても大きなテーマだと感じています。当社では社員数が100人を越したあたりから、クリエーティブのイメージを社内で伝え合うことの難しさが出てきたと、個人的には思っています。トースターの黒が、なぜこのマットの黒なのかという感覚って、非常に言語化しづらいので。

小竹:現状ではどう解決しているのでしょうか。

木下:とにかく案をたくさん出して打ち合っていくことでしょうか。

 例えば、レシピのビジュアルを作るために、目玉焼きの写真を1000枚、2000枚と撮って、あれでもない、これでもないと取捨選択をみんなで一緒にやっていく。その繰り返ししかないと思っています。

 関わる人が増えていく難しさも感じつつ、良さもあると思っています。いろんな価値観を取り込めますから。

小竹:その結果、商品と消費者の接点が多様になりますよね。次の商品も、もう考えているのでしょうか。

木下:アイデアレベルでは30個くらい出ていて、実際に動いているのは3、4件のプロダクトです。

小竹:楽しみですね。ちなみに、料理に関する商品ですか。

木下:まだ秘密です(笑)。ただ、私たちは結局、人生をより良くするものなら、何でも出したいと思っています。「家電メーカーである必要もないんじゃないか」くらいの感覚でいるんです。

小竹:なるほど。2017年には、カレーソースも出しましたよね。「人生をより良くする」というイメージを、もう少し詳しく教えてください。

木下:今の生活って、少し行きすぎた管理社会になっていて、時々スマホを捨てたくなることって、ありませんか? 表現が難しいのですが、もっとプリミティブ(原始的)な楽しさに立ち戻って、ゆっくり時間を過ごしたいという欲求が高まっているように感じています。その点、料理は誰にとっても身近で、かつ五感を使えて楽しめる最高の方法なのではないかと思うんです。

小竹:木下さんは「食」という分野にとても価値を置いているのですね。

木下:そうかもしれません。食べることがすごく好きです。お鍋で何かを煮ているだけで心が落ち着きます。前職もワイングラスメーカーの輸入担当だったので、食関連でしたし。

小竹:調理家電開発に携わったことで、価値観に変化はありましたか。

木下:一食一食の体験を、もっと大切にしたいと思うようになりました。死ぬまでにあと何回食べられるんだろう?その限られた1回の食事を、例えば最高においしいチーズトーストにできたらいいな、などと考えながら商品を開発しています。

小竹:こちらのトースターの海外展開は。

木下:既に韓国と台湾では展開していて、今後はヨーロッパでも進んでいきそうな兆しがあります。

小竹:ヨーロッパは相性が良さそうですね。クックパッドのサービスを世界で展開する中で実感しているのは、日本は世界的に見ても、食に関してかなり先行しているということです。

 山海の食材が豊かで、和・洋・中なんでも家庭の食卓に登場する味覚の幅広さ。料理の見た目や、繊細な味付けにもこだわります。ヨーロッパやアジアのような、もともと独自の食文化が根付いている地域では、日本人の感覚が受け入れられる商機があると思っています。

木下:早朝から焼きたてパンが買えるような食文化が深い地域でどこまで勝負できるかという不安もありつつ、できるチャレンジはしていきたいですね。

小竹:期待しています。調理家電を開発している方から「人生を良くしたい」という言葉が聞かれること自体、新しいと思いました。

 それにしても、次の新製品が何か気になります。消費者からは、どういう要望が来ていますか。

木下:つい昨日いただいたのは、冷蔵庫でした。小竹さんは何かありますか。

小竹:このトースターで焼くパンにぴったりのコーヒーメーカーなども、欲しくなりますね。何となく、バルミューダブランドには朝のイメージが合う気がします。

木下:皆さんに新しい驚きと楽しみを提供できるように頑張ります。人生は短いですから、1日1日を豊かにするプロダクトを生み出していきたいですね。

【小竹メモ】

 「皆さん、原始的な楽しさに立ち戻って、ゆっくりと時間を過ごしたい欲求が高まってきているのではないでしょうか」。そんな言葉が印象に残っています。そうした時に、料理はぴったりです。利便性の追求を超えて、私たちを豊かな心に導く調理家電が増えると、今までのような「家事としての料理」や、「家事としての料理をラクにする調理家電」から、もう一歩先に進むのではないでしょうか。