1997年の創業から21年、日本の家庭の食卓文化をリードしてきた“フードテック”の老舗、クックパッド。その初期メンバーであり、現在も同社のブランディング部門を率いる小竹貴子氏が、気になるフードビジネスの新芽をピックアップし、現場を訪ねる。連載4回目はプランティオ。園芸用品メーカー・セロン工業の創業家で、祖父が世界で初めて「プランター」を開発した企業の3代目となる芹澤孝悦氏が代表を務める。「プランター」を軸に日本の「食」と「農」を変えようとする取り組みを追った。今回はその後編。

(取材/2018年2月7日、構成/宮本恵理子)

プランティオ共同創業者兼CEO(最高経営責任者)の芹澤孝悦氏(写真:竹井 俊晴、ほかも同じ)
プランティオ共同創業者兼CEO(最高経営責任者)の芹澤孝悦氏(写真:竹井 俊晴、ほかも同じ)

小竹氏(以下、小竹):日本で「プランター」を開発した企業の3代目でもある芹澤さんが、プランター誕生から60年を経た今、最先端の技術を取り入れた「スマートプランター」を開発したというお話で、その概要をうかがいました(詳細は前編「IoT搭載、AIを活用したプランターって何だ?」。こちらのスマートプランター、IoT(モノのインターネット化)機能を搭載し、AI(人工知能)を活用して、野菜をすくすく育てるだけでなく、ほかにも面白い機能があるようですね。

芹澤孝悦氏(以下、芹澤):はい。それがコミュニティの機能です。私たちが提供するアプリとスマートプランターを連動させると、近くに住むほかのユーザーと、栽培体験を共有できるようになっています。「スナップエンドウがたくさん採れました。先着5人に差し上げます」といった告知をして、収穫物を交換することもできます。

小竹:いいですね。

芹澤:「 7月の第2土曜日にバーベキューをするから、Aさんはナスを、Bさんはピーマンを育ててください」と、分担して計画栽培をするのも楽しいと思います。僕たちが最終的に目指したいのは、「食の物々交換」ができる世界です。

江戸時代、長屋の暮らしでは普通にやっていた習慣を、テクノロジーを使って取り戻して、現代風にアップデートしようという試みです。

小竹:少しずつ作って、余った分はおすそ分け。ムダが減って、フードロス解消にもつながりそうです。

芹澤:そう思っています。飲食店なら、「あの食材がちょっと足りないから、近くですぐに採りにいけるプランターを検索しよう」といった使い方をしていただきたいですね。

提供する土にもこだわっています。僕たちが開発した土は、「リターナブルソイル」といって、火力発電所で使われた炭や廃棄予定のヤシの素材などに、微生物のカプセルを入れて栽培土にするものです。

土の中の栄養は、野菜を育てると減っていくのですが、リターナブルソイルの場合はそのタームが半年くらい。使い始めて半年経つと交換の通知が来て、箱が送られてきます。その箱に土を詰めてリサイクルセンターに送り返していただくと、また熱焼却で処理されて、新品に戻って返ってくる。コーラの瓶を捨てずにリサイクルするシステムと同じで、土を廃棄しないエコサイクルをつくります。

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