英学術誌『Nature』にも掲載された驚きの研究結果

朝倉:もともとは20年以上前、レトルトカレーの製造過程で、時々起こっていた問題を解決しようとしたことが発端でした。

 カレーの材料として使うタマネギは、焙煎すると通常はキツネ色になります。けれど時々、緑色に変色してしまうことがあるんです。人体に悪影響はないけれど、商品には使えず、廃棄せざるを得なかった。

 そのロスを解消するための原因究明が、当社内の研究所の一つのミッションだったのです。その結果、緑変の解消はすぐできたのですが、その研究の過程で、タマネギを切った時に涙を誘発したり、かじった時に辛みを感じさせたりする成分の発生に、ある酵素(LFS)が、最終段階で関わることを発見したのです。いわゆる研究の副産物ですね。これが世界的には初めての発見だったということで、英学術誌『Nature』にも掲載されました。これが2002年のことです。

小竹:15年以上前に遡るんですね。

朝倉:当時、私は「バーモントカレー」などを売る営業部門にいましたが、学術的に評価されたことは、社内でも話題になりました。でも正直、「それでどうするの」と思っていました。

 私たちはあくまで加工食品を手掛けるメーカーですから、その発見がどんな価値を秘めているのか、すぐには理解できなかったんです。その価値を教えてくださったのは、実は国内外の第三者なんですね。

 海外の生産者が「Dreams come true!」とSNSのツイッターで呟いたりするような反響が届き始めました。

 そこで、当時の研究員が「せっかく仕組みが分かったのだし、辛くないタマネギの栽培開発にも挑戦してみよう」と、強い意志をもって研究継続したそうです。

小竹:社内も賛成ムードだったのでしょうか。

朝倉:どちらかというと半信半疑の雰囲気だったと思います。そもそも生鮮物を扱うノウハウがないので、学会などで交流があった品種改良専門会社の植物育種研究所に声をかけて、タッグを組む形でプロジェクトを立ち上げました。

 それが2005年頃のこと。そこから7年かかって、ようやく初めての作出が成功しました。なぜ7年もかかったかというと、タマネギって品種改良に時間がかかる野菜なんです。私たちが普段食べているタマネギは球根ですが、種ではなく、これをもう一度土に植えて花を咲かせて、ようやく種が取れるんです。

 つまり、次世代の種を作るまで2年。トマトのように実の中に種がある野菜と違って、非常に開発に時間がかかるんです。

 2012年に辛くないタマネギが作出できて、次の種も安定するかを見るためにもう2年。形質の遺伝が確認できたことで、翌2015年にようやく、出荷体制を整えられました。

小竹:ドラマチックですね。しかし、メカニズムの発見から15年以上、商品化だけで7年とは。

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