「身近な家族の困り事を解決したい」

小竹:社会課題を解決する製品を作るという意識は、当初からあったのでしょうか。

真鍋馨氏(以下、真鍋):むしろ、ごく狭い視野ですね。「身近な家族の困り事を解決したい」という開発者の強い思いが源になっています。

 プロジェクトのメーンメンバーはもともと品質管理を担当していた女性なのですが、彼女の父親が突然、要介護状態となり、嚥下障害を抱えるようになったそうです。嚥下障害向けの食事を用意するには、家族が手間暇をかけて準備するか、レトルトの宅配サービスを利用するか手がない。それもレトルトの宅配サービスは1食1000円ほどかかるという。1人分の食費が月10万円を超える状況を何とか打破したいという、完全に“自分事”として、課題解決を目指したものだったんです。

 ただ思いが切実だから熱意も強かった。病院や介護施設を回って、どんな製品なら現場が助かるか、積極的にヒアリングを実施してアイデアを練っていきました。

深田:ビジネスコンテストの審査会では、試食シーンを録画した映像を会議で流したりもしました。感動で目に涙を浮かべている役員もいましたね。彼女たちのプレゼンテーションが終わった後、しばらく会議室が静まり返ったくらい。

 そこにいた誰もが、商品企画というのは本来こういうものではないのかと、原点に戻るような気持ちだったのだと思います。机上のデータだけを見つけて議論するのではなく、本当に困っている人の課題に徹底して寄り添う。その姿勢が大切である、と。

たった一人の課題解決に寄り添った結果、それが多くの人の困り事を解決し、結果的にマスも狙える製品になり得る。これからは、そういった視点での開発していくことが重要なのだと、私も気付かされました。

 もともと当社の歴史を振り返ると、創業者の松下幸之助の時代から、貧困の克服や家事の軽減といった社会課題解決型の事業展開を大事にしてきたというベースもあります。組織が大きくなり、量産ベースでの事業計画が当たり前となっていた今、改めて社会との関係性を見直そうという意識は、社内でも高まっている気がします。

(後編に続く)