世界中が、「介護食」で悩んでいる

深田:嚥下障害とは、食べ物を歯で噛み砕き、飲み込んで食道へと送るという機能が低下する障害です。嚥下障害が出てくると、普通の食事を摂取することが困難になります。

 ひどくなると誤嚥(ごえん)や窒息の原因にもなるため、嚥下障害を抱える人のいる家庭ではこれまで、食事が飲み込みやすくなるように、食べ物にとろみをつけたり、食べ物をミキサーにかけて流動状にしたりといった対策がとられてきました。

 デリソフターは新たな選択肢として、食べ物の見た目や味はそのままに、短時間で柔らかくする技術を搭載しています。技術面では、もともと当社が出している電力圧力鍋の技術を応用しているんです。

小竹:介護する人もされる人も、同じ料理を一緒に楽しめるのは素晴らしいことですよね。日本の産業界の中でも、伝統的に世界をリードしてきた家電の分野から、社会課題を解決できるような製品が生まれつつあるのが、私はとても嬉しくて。デリソフターの企画を思いついたきっかけも特殊だったとか。

深田:まず前提として、当社では「Game Changer Catapult(ゲーム・チェンジャー・カタパルト、以下カタパルト)」という活動を進めています。未来の家電をつくることを目的としたオープンイノベーション事業です。

 これまでの当社の事業というのは、どうしても何十万台を売るという量産ベースで計画されるものが多かった。冷蔵庫や洗濯機、テレビといった既存の事業を改善しながら展開する形が主流だったのです。

 けれど、3Dプリンターなどが広がりつつある今、誰でもメーカーになれる環境が整いました。消費者のニーズも多様化しています。モノを所有することに価値を置かない消費者も増える中、メーカーとして、ビジネスの前提条件が大きく変わってきている。それは当社の中でも大きな危機感でした。

 では、何ができるのか。そう考えた時、社内外の連携を促進しながら、お客様と一緒になって、全く新しい製品を作る試みも必要だと判断し、オープンイノベーションに取り組んだというわけです。

 具体的にはビジネスコンテストを開催し、アイデアを選出し、米国のテキサス州で毎年3月に開催されている展示祭「サウス・バイ・サウスウエスト」に出展して反応を見るという形で進めました。

 デリソフターはそのアイデアの一つだったんです。「サウス・バイ」の会場でも大好評でした。「いいと思ったアイデアに付箋を付けてください」というボードに置いたら、枠をはみ出すくらいにたくさんの付箋がついたんですよ。

「サウス・バイ」の会場ではデリソフターに「賛同」を示す大量の付箋がはられた

小竹:すごいですね。世界的に感心の高いテーマなんですね。

深田:そうなんです。「嚥下障害の食事をどうするか」というのはニッチなようで、実はそうでもないのかもしれないと気付きました。