ベビーブーマー(1946~64年生まれ)が退職している影響も大きい。
米国の労働力における大きな世代の塊として存在していたベビーブーマーだが、2000年代後半以降、退職が目立つようになった。米国の25~54歳人口は80年代に2%以上の伸びを見せたが、この10年は0.1%に過ぎない。その穴を埋める存在として期待されるミレニアル(80年代~2000年代初頭生まれ)も労働環境の悪い製造業を嫌って都市に出て行ってしまう。
「この世代は、親から『大学を出て自分よりもいい仕事に就きなさい』と言われてきた。地元にはベビーブーマーを埋め合わせる人材がいない」。シボイガン郡経済開発公社のデーン・チェコリンスキ氏は語る。
さらに、移民の流入が鈍化していることも労働力不足に拍車をかける。
米ピュー・リサーチ・センターによれば、両親ともに米国生まれの米国人が労働市場に流入する数は1990年代以降、減少傾向にある。75~85年の10年間に25~64歳人口が2003万人増加したのに対して、1985~95年は1512万人、95~2005年は1057万人、05~15年は482万人と大きく減っている。(参考記事:FACTANK『Immigration projected to drive growth in U.S. working-age population through at least 2035』)
その減少を補ったのは移民だ。実際の流入数を見ても、1995~2005年は1083万人、05~15年も612万人と両親ともに米国生まれの米国人を上回っている。だが、移民を送り出してきた国々の経済成長に伴って、米国への流入ペースは鈍化しつつある。そうなると、今後の伸びを支えるのは親とともに米国に来た移民2世だが、親世代の流入が鈍化すれば移民2世の伸びも鈍化する。

出所:Pew Research Center
経済面だけを考えれば、移民の流入を促進するような政策を採るべきだが、現在の抑制的な移民政策を考えると移民が急増していくとは考えにくい。しかも、トランプ政権が志向している製造業の米国回帰が進めば人手不足はさらに加速する。トランプ政権は長期的に3%の経済成長を目指しているが、現状では労働力不足が足かせになる可能性が高い。
もっとも、労働力不足はトランプ政権にとって悪い話ばかりではないかもしれない。トランプ大統領が意図していることではないだろうが、現在の状況が続けば企業は生産性の改善に取り組まざるを得ない。それが結果的にロボット開発のイノベーションを加速させるという期待だ。
「人類は今、ロボットの活用という面でとてつもない成長を目の当たりにしている」。カリフォルニア大学サンディエゴ校のヘンリック・クリステンセン教授がこう指摘するように、ここ数年、ロボットの活用が急速に広がっている。とりわけ中堅・中小の製造業での導入が目立つ。
例えば、鉄製のバスケットを製造しているMarlin Steel。同社は米国内のベーグル店向けにバスケットを納入していたが、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した2001年以降、価格競争力の勝る中国企業との競争に晒された。会社を畳むかドラスティックに会社を変革するか――。その二者択一を迫られたMarlin Steelは生産プロセスの自動化を決断。生産性の向上によって、それまでのベーグル店だけでなく、自動車メーカーや医療機器メーカーなどに顧客を広げることが可能になった。
人手不足に悩んでいるウィスコンシン州のプリマス・フォームも過去1年半でロボットの数を増やした。導入しているのは設定次第で動作を変えることができるフレキシブルなロボットだ。製品数が多く、一つあたりの生産量がそれほど多くない同社にとって、製造プロセスごとに作業を切り替えられないと導入する意味がないからだ。結果的に、他の複雑な作業に従業員を回せるようになった。
Powered by リゾーム?