中国に対するモノの貿易赤字は2016年でおよそ3470 億ドルと日本の5倍。北米自由貿易協定(NAFTA)に対する輸出も、10年前は日本が20%近くを占めていたが、現在は中国が逆転している。確かに、日系自動車メーカーは米国で660万台の自動車を販売している。日本に対する米国の貿易赤字は689億ドルと巨額だ。だが、自動車の現地生産は80年代とは比較にならないほど進み、貿易赤字も中国よりは少ない。

 「就任初日に中国を為替操作国に認定する」とトランプ大統領は明言していたが、今のところ見送っている。台湾の蔡英文総統との電話会談、すなわち「一つの中国」に対する牽制も、中国とのディールで譲歩を引き出すための布石という可能性も十分にある。それでも、米国の雇用を脅かしているのは中国であり、中国を活用している米自動車メーカー自身――ということを粘り強く訴えることで、米国の矛先をそらすという戦略だ。

 自らの保身のために他人を売ると言うのに等しい話だが、既にその手の戦いは始まっている。

 ここ最近、円安を為替操作とたびたび批判している米フォード・モーター。日経新聞が指摘しているように(こちら)、円安誘導批判をトランプ大統領の耳元でささやくことで、日系自動車メーカーを叩くことが目的の一つと見られる。同様に、フォードにとって相対的に重要な中国市場に対する攻撃をそらすという意図もあるに違いない。

あちこちで生贄が捧げられ始めた

 「交渉上の立場は(メキシコとカナダでは)全く違う。メキシコは高層ビルの窓からぶら下がっているようなものだ」。カナダの政府関係者がロイターの取材に述べたように、トランプ大統領の攻撃を全身で被弾しているメキシコにカナダも冷淡な態度を取っている。下手にメキシコに手をさしのべて、トランプ大統領に目をつけられてはたまらないという思いが透けて見える。

 中国市場は日本企業にとって極めて重要な市場だが、一方で現地企業の躍進や公正とは言えない競争環境もあり、中国ビジネスは段々と厳しくなっている。とりわけ、自動車市場は独フォルクスワーゲンや米ゼネラルモーターズが強く、日系メーカーは戦略の練り直しを迫られつつある。米国と中国の間で貿易を巡る摩擦が増えれば日本企業に悪影響が及ぶことは必至だが、日本企業の競争環境を考えれば、それも止むなしとみる向きもある。

 もちろん、トランプ大統領が中国悪玉論に耳を貸すかも不明な上に、経済規模や米経済との結びつきを考えれば、トランプ大統領が日本よりも中国を重視しても不思議ではない。だが、トランプ大統領が米国第一という名の一人勝ち戦略を推し進めようとしている中では、“トランプ砲”の照準を日本からそらすのも重要なことだろう。貴重なお土産カードをいかに効果的に切るか、ということが大切なのは言うまでもないが…。

 かつては正義の味方を自認していた国も存在したが、少なくとも今はどこにもいない。世界も注目している首脳会議。安倍首相はどういう策で望むのだろうか。