可能性が高いのは原産地規則の見直し

 現時点で最もありそうなのは、NAFTAの原産地規則の見直しではないだろうか。

 NAFTAにおける特恵関税率は域内付加価値62.5%を満たした場合に適用されるが、そこに「かつ、米国内での付加価値が50%以上のものに限る」というような文言を加えるという修正だ。もちろん、「メキシコの日系メーカーは“トランプ”に冷静だった」で日系部品メーカーが述べているようにバイアメリカンには難しい面もあるが、これによって自動車メーカーは国内での調達を余儀なくされる。原産地規則のような細かいところではなく、メキシコやカナダから輸入する完成車の関税コストを引き上げるという単純な手も十分に考えられる。

 ただNAFTAの再交渉にしても、メキシコに再交渉で譲歩するメリットはほとんどないと思われるため、米国の提案を拒否してズルズルと時間だけが過ぎる、というシナリオも大いにありえる。

○通商政策でトランプ政権が取り得る手(対メキシコ)
NAFTAでの再交渉
米国における乗用車の特恵税率の引き上げ
メキシコ・カナダから輸入する完成車の関税コストを引き上げ、米国内での生産車の競争力を上げることで、各社の国内工場拡大を狙う
米国における乗用車の特恵税率の適用条件である原産地規則(現行の純粋累積ルール)に、以下のような条件を加える。「乗用車に関連する品目について、米国が譲許した特恵関税率を適用する条件をNAFTA域内付加価値62.5%、かつ米国内での付加価値50%以上であるものに限る」――など
現行の特恵関税率はNAFTA域内付加価値62.5%を満たした場合に適用されるが、さらに米国内での付加価値率を定め、米国内で一定の付加価値を製造させるように仕向ける
関税措置
メキシコからの輸入品に関税を課す
(問題点・WTOルール違反)
WTOの最恵国待遇原則(特定の国を対象とした差別的な取扱いはNG)に反するため、メキシコ産を狙い撃ちにした35%関税は無理。WTO加盟国すべてに対して関税率を35%にすることは可能(ただし、WTO締約国との協議が必要)
アンチダンピング関税
(問題点・メキシコへの適用が困難)
アンチダンピングの要件は以下の3つ。①ダンピング輸入(不当廉売)の事実、②国内産業が損害を受けているという事実、③両者の因果関係、④国内産業を保護するために必要であることメ。メキシコからの輸入に関しては、①がそもそも満たされない可能性が高い
セーフガード
(問題点・特定の国を狙い撃ちできない)
セーフガード(緊急輸入制限)とは自国の産業に甚大な被害を与える輸入品に対する対応。自動車を例に取ると、NAFTA域内からの輸入だけでなく、他の国々からの輸入にも適用される
非関税措置
国境税調整
(問題点・WTOルール違反の恐れ)
共和党案。WTOでは輸出品への免税(仕向け地主義)は間接税のみ可。法人税の場合は輸出補助金とみなされる可能性あり
基準認証(自動車規格)での障壁形成
(問題点・WTOルール違反/自動車産業が反対)
米国には日本や欧州のような車両認証制度がなく、連邦政府の定める自動車基準(FMVSS)に基づき、自動車メーカーが自らの責任で認証を行い車両を販売している。このFMVSSの内容に、「米国内での生産・調達を求める要件」を加えることで障壁を作ることが可能
恩典(自動車取得税など)条件での国内調達要求
(問題点・WTOルール違反)
インドネシアのLCGC(Low Cost Green Car)政策における税恩典の条件としての国内調達要求と同じことをすることも障壁のひとつ。ただし国内調達要求もWTO違反の可能性
ツイッター介入
ツイッターで企業を個別に攻撃し、米国内に投資を行うよう仕向ける
※注:デロイト トーマツ コンサルティング Regulatory Strategyの協力で作成
旗3つ…法的に可能で、関係者の調整次第でありうるもの
旗2つ…可能だが、法的にグレーなもの
旗1つ…法的に違反か、法的にグレーでかつ米国内の関係者の批判が予想されるのもの