タイ版「トクホ」にも大きな可能性

EVのお話は代表的な事例で影響も大きいと思いますが、他にはどのような分野で可能性があるのでしょうか。

松島:色々あると思いますが、食品や医薬品といった分野は産業上も重要ですし、その分ロビー活動の必然性もありますよね。タイは米食が中心なのはご存知の通りですが、現在、日本の食品メーカーなどが取り組んでいるのは「機能性米」の展開です。腎臓病患者などに提供できる、低たんぱく質の米です。

 タイでは経済発展に伴って食生活も欧米化しているので、糖尿病や腎臓病などに苦しむ患者も増加傾向にあります。今後もかなりのスピードで増えることが懸念されているわけですが、国民皆保険ではないので透析治療などはあまりに高額で利用できない。すると、食事療法で代替できないかという発想が出てくるわけです。

 そこに、機能性米のような食品を導入することで、生活習慣病を抑えることにつながる。日本における特定保健用食品(トクホ)のような制度の整備も進んでいく。これもやはり、政府の問題意識を汲み取り、課題を解決できる技術、製品ということでロビー活動も含めて提案していくということです。

お話を伺っていると、新興国におけるロビー活動の要点がよく分かります。一般にアジアなどでは、いわゆる「袖の下」のような裏工作が横行していて、政情も不安定というイメージが強いですが、実際には違うのでしょうか。

松島:政情が不安定ということでいえば、それは当然起こりうるわけですが、与党と最大野党のように2軸を踏まえて活動することは重要です。これは新興国に限らず、米国でも政権交代は起こるわけですし、ロビー活動の基本ではありますよね。加えて、両軸に張ることで、汚職に対して一種の消毒効果も見込めます。

 もう一つは、実はタイにしろインドにしろ、官僚機構は非常にしっかりしています。大臣への根回しはもちろん必要ですが、むしろ官僚機構、局長レベルの人材としっかりパイプを作り、彼らにとってのメリットや出世の仕組みなどもきちんと考えながら、ことを進めていくことが大事になります。

 汚職という観点についても、ASEAN(東南アジア諸国連合)の経済統合もあり、域内のヒト・モノ・カネの動きはより激しくなります。当然監視も厳しくなりますから、いわゆる「鎖国」のような状態で、賄賂が横行してという構図にはすでにないですね。メディアの力も強く、不正に対する考え方も厳しくなっています。

 国としても、凡庸な役人が賄賂をもらって融通を効かせるというような状態では、国同士の競争に勝てないという危機感は強い。有能な人材をきちんと遇して、産業の競争力を高めていこうという考え方は強いと思います。