社会課題に合致した技術・製品を売り込む

中小企業ですか。それはどういうことでしょうか。

松島:もともと、中小企業の海外展開というものは、2010年、11年ごろまでは大手企業の下請けの構図で出て行くことが多かったわけです。トヨタ自動車が進出した国に、系列の部品メーカーが進出するといった、ピラミッド型の構図ですね。ただ、現在は地場の企業の生産性や製品品質が高まっており、日本と新興国の差が縮まってきています。

 そうした状況で、新興国ではこれまでの下請け的な生産基地としての役割から、イノベーションを起こしたり、デジタライズされた産業に構造転換したりすることを重視するようになっている。そうしたときに、日本の中小企業が単に進出してきて、下請けで仕事をもらうという状況にはなりにくくなっているんです。

 一方、これはチャンスでもあって、その国の課題に合致したような独自の技術を持ち込んで、その課題を解決できることが示せれば、大きな意義があるということでもあります。実際、こうした立場で最初から海外展開を目指すというベンチャー企業なども出てきています。

具体的には、どのような動きがあるのでしょうか。

松島:川崎市に本社があるFOMM(フォム)というベンチャー企業があります。同社は電気自動車(EV)の開発を行なっているのですが、これは水に浮いて、しかも非常にコンパクトなんです。「コンパクトEV」という新しいセグメントを、製品開発とロビー活動の両方に注力した結果として創造し、規制作りにも関わったのです。同社は年内にタイで量産も始める計画です。

水に浮くというのはユニークな性能ですね。

松島:2011年に発生した大洪水に代表されるように、タイという国は水害の被害が甚大です。FOMMはそうした社会課題を解決するためのコンセプトを基に開発されたということですね。同社のEVはそれ以外にも、多くの革新的な技術を組み合わせているのですが、政府が考えている社会課題の解決や、環境配慮型の新たな産業政策に適合しているということなのです。

 タイでは2014年に軍事クーデターが起こり、プラユット政権が誕生しましたが、プラユット首相や経済を統括するソムキット副首相ら首脳は、新しい産業の創造に熱心です。EV産業に大きく舵を切っているのもその取り組みの一つですが、FOMM側としてもそうした意向を汲み取り、ロビー活動を含めて働きかけを積極的に行ってきました。

 例えば製品の売り込みにしても、単に技術のプレゼンテーションをするということだけでなく、2015年には大々的な会議とデモンストレーションを実施して、副首相や工業大臣に試乗してもらいました。その翌16年には、プラユット首相の試乗も実現させています。もちろん、これはそれまでに工業大臣や科学技術大臣に丁寧な根回しを行っていたからこそです。

 こうした実績によって、メディアでもFOMMの製品はどんどん注目され、情報が広がっていくことになった。タイの社会課題の解決につながる、コンパクトEVというセグメントの新しい基準を作り上げていったということなのです。

新しいコンセプトとそれを支える技術、さらに当該の製品がどのような価値をもたらすのかを、ロビー活動を通じて提案していった結果ということですね。

松島:その通りです。安い労働力の活用や資本の投入ではなく、イノベーションを起こす方法として新しいシーズ(種)をタイに持ち込み、ケミストリーを生み出すということですね。要するに、相手が何を欲しがっているかを見抜き、それに合致する価値を提供するということです。これはロビー活動の本質だと思いますね。

 加えて重要なことは、どのようなイノベーションが起こせるのかということを、新興国で権限を持っている人々に理解してもらえるよう、分かりやすく「翻訳」することです。制度の隙間というか、まだ規制が十分に整っていない分野、または全く未構築の分野というのは新興国には非常に多い。

 それは開発の余地が大きいということであり、同時にその国の人々にとっては分からないことも多い。だから、この技術を活用することで社会がこのように変わるということを、丁寧に解説して示すことが大事になります。