メガソーラー(大規模太陽光発電所)開発の自然電力も2014年に東京から福岡に本社を移転した。同社の磯野謙代表は「福岡市は都市と自然とのバランスが取れていて、世界でもトップクラスに入る住みやすい街だと感じている」と話す。

 福岡に本社を構えることで、エネルギー分野の企業として他社との差別化も期待できる。「競争相手の企業が多い東京では、エネルギー業界のトップ1%に当たる優秀な人材を確保するのは難しい。しかし九州でなら獲得できる。トップ1%の人材が持っているスキルは、東京も九州も変わらない。ライフスタイルなどの志向が違うだけだ」(磯野代表)。

福岡への移住を促す

 今、福岡市が誘致に力を入れている業種が、IT(情報技術)、ゲームなど知識創造型(クリエーティブ)産業。ただ、最近では移転を検討する企業から「将来的に会社の中核を担うような経験豊富な人材を福岡市で確保できるのか」と問われることが多くなった。

 福岡市は若い年代層の人口が増加しており、新卒採用における人材は豊富だ。しかし、クリエーティブ産業を中心として「経験者」層がまだまだ不足している。これが、企業の福岡移転や地元企業の成長の妨げになっている。福岡市企業誘致課の中村健児課長は「企業が何を期待して移転するかを突き詰めると、人材を確保できるかどうかという課題に行き着いた」と話す。

 そこで福岡市は全国でも珍しい「ヒト」を誘致する仕掛けを数年前から始めた。東京の経験者を福岡に移住させようという試みだ。

 2014年3月、東京で「ぼくらの福岡移住計画」というイベントを開催。髙島宗一郎市長や福岡市に第2の開発拠点を構えるLINEの執行役員が登壇したほか、企業と人材の交流会も行われた。

 移住したクリエイターや地元企業の生の声が聞けるとあって、当初180人だった定員はあっという間に埋まった。定員を200人に引き上げたものの、最終的には300人を超える応募があり、一部は抽選にしなければならなかったほどだった。

 イベントは成功に終ったものの、課題も鮮明になった。イベント後のアンケートによると、移住の課題として「仕事」「収入」への不安を挙げる人が圧倒的に多かったのだ。

 2014年9月には、「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」と銘打って、クリエイターやエンジニアが2カ月間、福岡の地元企業でトライアルとして働く試みを行った。トライアル期間の給与は福岡市が負担した。求人企業数36社に対して、登録者は66人。このうち15人がトライアルに参加した。

「福岡クリエイティブキャンプ」のイベントの様子

 トライアル参加者からは「終了後の採用が保証されていないので、参加のリスクが大きい」との声が出た。企業側にも「終了後のことを考えると、社員ではない人材を受け入れるのは責任の重さを感じる」と不安を漏らすところがあった。

 そこで2015年はシンプルな仕組みに変更。IT・コンテンツ開発経験者を対象に、県外から福岡市に移住・転職した人に応援金40万円を支給することにした。移住を希望する人には、市が無料で企業を紹介する。この取り組みでは2016年1月までに20人を超える採用が決定している。

 経験者人材の移住に向けた福岡市の試行錯誤は続く。2016年も「ヒト」を呼び込む仕掛けを継続する予定だ。移住支援に積極的な自治体として、福岡市の姿勢は広く知れ渡りつつある。