ロシアの抱える課題に対するスコルコボの戦略

 これまで、シリコンバレーの成功要因をリファレンスとして、ロシア(および日本)の課題をみてきた。振り返ると、法制度、知識の流通、初期ユーザーの確保、海外展開における課題となる。最後に、スコルコボがそれをどう解決していこうとしているのかを筆者の想像も交えて考えてみよう。

 とっかかりは、大企業との関係だ。この連載の第2回で書いたように、スコルコボがターゲットとするのは研究開発型のスタートアップである。それがイノベーティブであるほどマーケットに出すためには時間がかかる。しかも、技術単体で売れることは少なく、何らかのサービスに組み込むことが必要になる。

 そこで重要となるのが、初期ユーザーとして、既存の大企業との良好で対等な関係を作ることだ。日本でも、特にB2Bのスタートアップでは、ある程度の規模まで成長するために、大企業と良好で対等な関係を作ることがかなり重要なファクターとなる。スコルコボは、スポンサードのイベントをはじめとして、パートナーとして大企業の関与を高めようとしている。ロシアでは特に大企業との取引がないとなかなか信用を得られないこともあって、その関係性を築くことを重視しているようだ。

 実証実験であっても大企業からのまとまった収益があれば、株式による資金調達と同じ効果が得られる。特許によるライセンスという形であればなお良い。そうするうちに、大企業に買収される例も出てくるだろう。それにより、大企業内部とスコルコボとのコネクションができてくる。また、大企業との提携が蓄積されれば、その提携契約の事例も積み上がっていくだろう。これが法制度やルールの整備に通じていく。そして、その大企業が海外の企業であれば、それは自ずから海外展開を意味する。スコルコボで海外人材の就労の規制が緩和されていることもこれを促す効果を狙ってのことだろう。

 まとめると、海外の大企業をパートナリングし、スコルコボのスタートアップとの連携を促すことで、ロシア発の技術を海外展開させていく。そのモデルを実証した上で、国内のテックパークに広げていき、そうすることで、天然資源に偏重している産業構造をより多角的なものにしていくというロシアの国策の実現を図ろうとしている、といえそうだ。

 今はまだ、ロシア経済は、ウクライナ問題に起因する経済制裁や原油価格の低迷に苦しんでいる。また、ロシアでのビジネスというと、どうしても石油や天然ガスなどのエネルギー資源の話題に終始しがちだし、ロシアに関するニュースには政治的な問題ばかりが取り上げられがちだ。しかし、これまで見てきたように、スコルコボのように新たな事業を構築していこうという取り組みも粛々と進行しているということは見逃されがちだ。

 一方で、スタートアップというとシリコンバレーという連想も強い。もちろん、そのエコシステムの強靭さは故あってのものだ。しかし、いまやイノベーションへの取り組みはさまざまな国でなされており、米国ですらシリコンバレーだけでなく、スタートアップの展開拠点は多角化しつつある。そういった中で、日本の企業が海外のスタートアップとのイノベーティブな連携を考える際に、1カ所だけを見つめているのは得策とはいえないだろう。これまで見てきたように、様々な点で日本とよく似た環境をもち、自らの環境の持つ課題を自覚的に克服しようとしているロシアのスタートアップはもっと注目されてよいはずだと思う。

本文では紹介できなかったが、DI Telegraphというモスクワの有力なコワーキングスペースの一角。ここは海外を狙うスタートアップであることが入居条件だ