ではロシアではどうだろうか。ロシアは資本主義が導入されたのが1991年であり、ようやく四半世紀が経とうとしているところだ。社会主義瓦解後に、会社法などを整備しつつ私有化を進めたが、少数株主保護やコーポレートガバナンスの点では抜け穴も多く、着々と改善されてはきているようだが、ルール化やその執行での不安要素はまだ多いようだ。そのせいもあるかもしれないが、中規模の投資を担う投資家が少ないと言われる。

 すなわち、シードは金額も少なくて済むので参入しやすい一方で、大企業はその資本力で投資は可能だが(日本円で)十数億円以上のまとまった金額になりがちだ。それに対し、ここで中規模と称した数千万円から1億円くらいのレンジの金額の投資家がまだまだ少ないようなのだ。スコルコボのグラントの仕組み(第2回参照)はこの辺りを意識していると考えられる。

 実は、これは日本でも状況はそれほど変わらない。関係者の努力もあって、上述したようなさまざまなルールは適用され経験が蓄積されてきているが、浸透するには時間がかかる。また、中規模の投資家を探すのに苦労するスタートアップも多いようだ。

知識が流通・蓄積される仕組み

 次に知識に注目する。知識はヒトを介して流通し、蓄積される。知識が流通することでアイデアが生まれ、蓄積することで多くのヒトによる活用が可能になる。そこではヒトが交流する仕組みが重要だ。その仕組みとしてすぐ思い浮かぶのは、シリコンバレーの至る所で行われているミートアップやピッチイベントの数々である。それらのイベントを定期的に開催する会社・組織はもちろん、それらを検索するためのアプリを提供している会社もある。投資家や採用のための出会いを目的としたものもあれば、ワークショップ的に共同作業することで学びを得ようとするものもある。こういったイベントは日本でも随分増えてきたようだし、前回にスコルコボでも行なわれているという紹介をした。

 しかし、知識の流通としてより重要なのは、雇用の流動性の高さだ。例えば、スタートアップを立ち上げた後、グーグルなどの大手に買収され、しばらく勤めた後に、また別のスタートアップを立ち上げたり、ジョインしたりするパターンだ。これにより、スタートアップだけではなくて、大手のビジネスシステムの経験を得ることができることと、一緒に仕事をしたことのある人たちとのコネクションを築くことができる。

 ポイントは一緒に仕事をしたことがある、というところだろう。イベントなどで会って話したというレベルではなく、一緒に仕事をすることでより強固なネットワークとなる。そのネットワークを通じて、さまざまな経験から得た知識が流通することになる。これは雇用者に求められる期待値を特定のスキル・役割として明確にすることが多いという組織特性によることもあるが、職場を変わることはポジティブなことだという共通認識に負うところも大きいだろう。

 ロシアで開催されているスタートアップ関連のイベントはあるが、量的にはシリコンバレーとは比べものにならない。しかし、スコルコボでもこれから増やしていこうという取り組みはあるし、モスクワの街中でもコワーキングスペースなどを基点として増えてきているようだ。雇用の流動性は、都市部では高いらしい。ただ、日本と同様に、起業を狙う層と高待遇の職を求める層と二極化しているようで、シリコンバレーのようなスタートアップと大手企業を行き来するような動きはまだまだ少なそうだ。

モスクワで行われたTechCrunchのミートアップの様子
モスクワで行われたTechCrunchのミートアップの様子

 次回はもう1つの観点、スタートアップのインキュベーション環境について考察し、そこからあがってきた課題をスコルコボはどう解決しようとしているのかを考えていく。