スタートアップに必要なリソースが循環する仕組み
シリコンバレーでは、スタンフォード大学の学生をはじめ、世界中から集まる優秀な人材がスタートアップの担い手となる。多くのスタートアップが立ち上がり、それらに自己資金で投資するエンジェルやさまざまな投資家からの資金を集めてファンドを組んだVCが投資を行う。スタートアップは、IPO(新規株式公開)するか、別の会社に買収されるという形で、エンジェルやVCに資金を還流する。エンジェルは還流した資金で、VCはその実績をもとにさらに資金を調達し、新たなスタートアップへの投資を行う。また、スタートアップを経験した人材はさらに次のスタートアップを起こしたり、エンジェルとして後進を育てたりする側にまわることになる。こうしたサイクルがまわっていくことで、ますます人材と資金が集まり、技術やスタートアップ経営のノウハウが集積されていく。
経営リソースというとよく「ヒト・モノ・カネ」と言われるが、モノ(資源)確保の重要性より技術を生み出したり効率的な経営を行ったりする知識が重要視されるシリコンバレーでは「ヒト・知識・カネ」と言い換えた方が良いだろう。リソースをそう解釈すると、上の描写の通り、その3つがうまく循環しつつ絡み合って、それぞれを高めていることが分かる。半世紀弱にわたる成功や失敗が積み重ねられてきた結果の仕組みであるため、その成功要因を取り出すことは容易ではないが、ここではこの循環がスムーズに駆動する条件として2つのことに注目してみよう。

法制度の充実による投資家の参加しやすさ
リソースのうち、カネに注目する。ここでは法制度を広く捉えて、契約慣行なども含んで考えて欲しい。まず、少なくともシリコンバレーでは、スタートアップの定義には急成長するということが含まれていることに注意しよう。そのためには必要に応じて相応の金額の資金調達をすることが必要だ。適切な形で資金調達ができないと、時機を捉えることができずに失速したり、関係者間での大きなトラブルにつながったりということになる。それを未然に防ぐ工夫が、会社法や投資契約などで、あらかじめあるいは都度協議により規定されたルールだ。
シリコンバレーの会社がデラウェア州で登記することが多いのは判例が豊富でトラブルへの対処の予測可能性が高いからで、近年では同じ理由でカリフォルニア州での登記も増えてきている。また、多様な優先株の活用やコンバーティブル・ノートと呼ばれる資金提供の仕方、ベスティングといった株式付与の取り決めなどのための契約書類が整備されている。例えば、有名なシードアクセラレーターのYコンビネーターは、シード期の投資のための契約書類をオープンソースとして公開している。これらは必ずしもVCの利益を守るためだけでもなく、スタートアップのファウンダーの権利を確保するためにもなっている。また、アクセラレーターのようなスタートアップ支援組織が開くイベントでは、弁護士による契約ルールのレクチャーが行われている。
このようにルールが整備され、それが共通認識として流通していることで、ファウンダーと投資家のコミュニケーションも円滑となり、投資がしやすくなる、つまりは、資金が確保しやすくなるというメリットが生まれているのである。
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