スタンフォード大学創立50週年を記念して建てられたフーバータワーからシリコンバレーをのぞむ
スタンフォード大学創立50週年を記念して建てられたフーバータワーからシリコンバレーをのぞむ

 ロシアが国をあげて推進するイノベーションセンター、スコルコボ。これまで3回にわたって、スコルコボに参加しているスタートアップの特徴や支援策、人材の育成や交流の促し方について見てきた。つまり、スコルコボで行われていることの紹介をしてきたが、今回からは、スコルコボがインキュベーションセンターとして実践しようとしていることをより理解するための考察をしていきたい。

 第1回でも触れたが、スコルコボ5周年を記念するオンライントークセッションで、スコルコボの旗振り役であるメドベージェフ首相は、シリコンバレーと比較されるのを拒否し、スコルコボの独自性を訴えていた。これはどう理解すれば良いのだろうか。それを探っていくためにも、まずはシリコンバレーのおさらいから始めよう。

シリコンバレーとはどんなところか?

 シリコンバレーは、米国西海岸サンフランシスコの南のサンタクララバレーを中心とした地域の呼称である。20世紀初頭にはスタンフォード大学と海軍航空基地のほかは農地が拡がるだけだったこの土地は、1970年に入ると真空管をはじめとしたエレクトロニクス産業の集積が始まった。そして大学発の技術を中心に勃興した新興企業を育てるために投資家たちが集まり始める。

 政府当局は投資を促進するためにリミテッドパートナーシップの形態を整備し、現在のベンチャーキャピタル(VC)隆盛の基礎が作られた。いまでもスタンフォード大学の北西のサンド・ヒル・ロード沿いには著名なVCが軒を連ねている。スタンフォード大学から車で西に30分ほど行けば米グーグルの本社があり、北に30分ほど行くと米フェイスブックの本社がある。

 シリコンバレーの成功は、スタートアップのエコシステム(生態系)によると言われる。ここではそのエコシステムの中身を2つの観点から分析してみよう。1つは、スタートアップに必要なリソースが循環する仕組みという観点。もう1つは、その循環からつくられるスタートアップのインキュベーション環境の観点だ。それぞれの分析の後、それらが成立する条件はロシア、ついでに日本ではどうなっているのかに触れていく。それらを理解することで、スコルコボの狙いがより鮮明に分かるようになるだろう。

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