特定の企業とスコルコボの共催という形で企画されるものもある。例えば、米シスコシステムズと共催したSkolkovo Cybersecurity Challengeや、KAMAZ(ロシア最大のトラック製造企業)やパナソニックなどと共催したElectrochemistryなどがある。これらのコンテストは企業からの希望に応じて、スコルコボファウンデーションがコーディネートしてくれるとのことだ。さらに、UniverStartupという学生向けの起業コンテストも開催されている。

 これらのイベントの最大の効果は、やはり人材交流だろう。大学等でも指摘されるが研究分野が異なるとなかなか話す機会が得られず、交流がかなり制限される。事業化という共通の課題を軸に、領域の重なる企画を行っていくことで異分野の人材間でのやりとりが促される。このように領域を超えることで得られる発想も大きいだろう。実際、こうしたイベントを通じた出会いによって、クラスターを超えたプロジェクトもでき始めているという。

 また、研究開発型のスタートアップにとっては当該領域に精通した優秀な研究者・技術者を獲得することは死活問題だ。そうした人材と出会う機会が増え、またコンテストを通じてその技術力を見極められるのは非常に有意義だと考えられる。シリコンバレーでも毎晩のように随所でピッチコンテストやミートアップが行われているが、事業立ち上げの仲間集めや人材採用が目的で会話をしていることが多い。スコルコボでのイベントはそういった機能の一端を担っているといってよいだろう。

Startup Villageでのピッチコンテストの様子。真ん中奥でマイクを持っているのがプレゼンターだ
Startup Villageでのピッチコンテストの様子。真ん中奥でマイクを持っているのがプレゼンターだ

実験の場としてのスコルコボ

 イノベーションの集積地として機能するためには、優秀な人材を引きつけ、その相互交流を促し、ある種の化学反応を起こすような仕組みが必要だ。そのためにどうすればよいか。これは、イノベーションを促すエコシステムを構築する際に必ず取り組まねばならない問題といえる。

 実は、ロシアにはスコルコボ以外にもハイテク企業の入居するテックパークがほぼ全土にまたがって存在しており、それぞれ補助金や優遇措置等を持っている。そういった中で、スコルコボの特殊性は先の課題に対する取り組みを実証実験する場だということにある。これは、スコルコボにいる人たちが多かれ少なかれ自負していることであり、そこで成功した取り組みがロシア全土に広がり、ロシアを変えていく可能性を秘めているともいえるだろう。

 これまでスコルコボのスタートアップへの支援内容や人材育成・交流の仕組みについて見てきた。次回からは、少し視点を広げて、日本や米国と比較しながらスコルコボについての考察を深めていきたい。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。