根強く残っていたカルテル体質

 そのツケはバブル崩壊で余分に払わされた。当時の日本の金融市場は、マクロ的に見れば、「個人や企業のマネーが、株式などではなく預金などの形で銀行部門にたまりすぎた」(後に金融庁長官となった五味弘文)状態(上のグラフ参照)だった。

 しかも金融機関は、地価の上昇を前提に土地を担保に融資していた。地価や株価が暴落すると、多額の融資を受けていた不動産系企業などの資金繰りが悪化して不良債権が増大していった。バブル崩壊は、伝統的な商業銀行モデルの継続に重いかせとなったのである。

 それでも金融改革を進めようという機運は盛り上がらなかった。例えば証券ビジネス。当時、株式の売買は証券会社の手数料が高止まりしていた上に、有価証券取引税などがかかり、欧米に比べてコスト高な構造がはっきりしていた。ところが、「証券会社の中には、そうした問題を指摘する声はほとんどなかったし、逆に守りに入っていた」と松井証券社長の松井道夫は指摘する。

 松井はビッグバンの始まる前、96年4月から、顧客の株式を預かる際に証券会社がかけていた保護預かり手数料を他社に先駆けて無料化。インターネット証券に進出する前年の98年には、投資信託の手数料を大幅に引き下げて、大手証券系列の投信会社から商品供給をストップさせられている。

 「当時の証券界はカルテル体質のようなものだった」(松井)のである。バブル時代まで長期にわたって株価が上昇した時代の名残で、バブル崩壊後になっても投資家は不満の声を上げないし、規制する側の旧大蔵省は「前例踏襲に慣れきっていた」と元財務大臣の与謝野馨は振り返る。

90年代後半に資本・金融市場改革を一気に進めた
●日本版ビッグバンを中心にした改革の概要
1996年
1月
橋本龍太郎内閣発足 橋本首相は、2001年までに日本の金融市場がニューヨーク、ロンドン並みの国際市場となることを目標に金融システム改革に乗り出した。
1997年
6月
自社株取得の促進、ストックオプション制度改革 ストックオプション全面解禁。企業の自社株買い規制を緩和。
同年
7月
デリバティブ全面解禁 個別株オプションなどデリバティブを全面解禁。リスクヘッジの多様な取引が可能に。
同年年
10月
証券総合口座解禁 翌年9月には、給与振り込みも可能に。個人と証券市場の距離を短くした。
同年
11月
三洋証券、山一証券、北海道拓殖銀行が事実上経営破綻 金融危機深刻化。大手金融機関が連続破綻。
同年
12月
金融持ち株会社解禁 持ち株会社の下での銀行、証券などの金融再編を進めやすくした。
1998年
4月
外国為替及び外国貿易管理法を抜本改正 改正まで海外と国内の資金やモノ・サービスのやり取りを財務大臣などに事前に届け出る必要があったが、事後報告に。銀行のみが為替業務を行う為銀主義も廃止。個人や企業が自由に取引可能に。
同年
6月
金融監督庁発足、金融システム改革法成立 金融庁の前身となる金融監督庁が大蔵省から分離発足。日本版ビッグバンの基本法となる改革法が成立。2000年7月、金融庁に。
同年
12月
取引所集中義務撤廃 証券取引を東京証券取引所などに集中する義務を撤廃。私設取引が可能に。
同年
同月
銀行窓販導入 銀行の窓口での投資信託などの販売を解禁。証券の販売チャネルが拡大。
同年
同月
証券会社を免許制から登録制へ 証券会社を登録で開業できるようにして参入しやすくした。ネット証券などが参入。
1999年
4月
有価証券取引税、取引所税廃止 証券取引に課していた税を廃止。海外の証券市場に比べ、証券取引をコスト高にしているとされていた。同月、東証で立会場が廃止に。
同年
10月
株式売買の委託手数料全面自由化 株式売買の際、証券会社に支払う手数料の規制を廃止。完全に自由に。ネット証券などでは手数料は一気に10分の1以下に下がった。
同年
同月
株式交換・移転制度導入 株式を対価に企業買収ができるようになり、企業のグループ再編やM&A(合併・買収)をしやすくした。
同年
同月
銀行の証券子会社など業務規制撤廃 銀行などが設立した証券子会社の業務規制を廃止。既存証券会社と競争できる環境整備。
同年
11月
東証がマザーズ市場創設 新興企業の上場拡大を目指し、東証が新市場を創設。翌年、大阪証券取引所がナスダック・ジャパン市場を創設。
2000年
3月
連結決算中心へ移行 企業会計は、3月期から世界標準となっていた連結決算へ移行した。
2001年
3月
時価会計導入 企業会計が時価会計へ。不動産や株式の含み益を使った経営に転機。
同年
7月
ETF上場 ETF(上場投資信託)が新たな金融商品として登場。
同年
9月
REIT上場 不動産からの収益を裏付けにしたREIT(不動産投信)が上場された。
2004年
6月
証券取引法改正 銀行に証券仲介業務を解禁。
2006年
5月
会社法施行 企業の統治構造を柔軟化。種類株を拡大。
2007年
9月
金融商品取引法施行 業態を超えて金融関連事業者を規制。投資性の強い金融商品に対する投資家保護や、開示制度の拡充、不公正取引などへの対応などを定めた。

次ページ 「成果を生まなかった」と断定