社員旅行を新人が企画

 社内の研修と同様に、不人気な社内イベントになりがちなのが「社員旅行」。「休日まで上司と話をしたくない」「週末ぐらい家族と過ごしたい」といった声に押され、取りやめてしまった企業や職場も多いだろう。これも、やり方によっては職場の一体感を高める方法として有効に活用することが可能だ。

 龍名館は、明治32年(1899年)創業の、歴史ある旅館だ。現在は東京・御茶ノ水と東京駅前でホテルを構えるほか、レストラン運営にも携わる。社員数60人、パートなどを入れても100人の小さな企業だが、ここ数年は訪日外国人客の増加や都心部のホテル不足などもあいまって、規模を拡大。若い人の採用も増えてきた。

 若手育成のために何かできないかと考えたのが、社員旅行の復活だ。ただし、普通の社員旅行ではない。新入社員中心の若手チームがプランの企画から参加者募集、実施まですべてを取り仕切る。新人研修を兼ねた社員旅行なのだ。

 研修の目的は3つある。1つは、ホテルを運営する会社の社員として、旅行の企画を通じてお客様の視点を身につけてもらうこと。次に、社員旅行の企画・運営を会社のプロジェクトの立案や実行の「疑似体験」にすることだ。社員が参加しやすい日程の調整から、費用を抑えるための工夫や交渉、計画の立て方まで、すべてが後々役に立つ経験になる。

 最後の狙いが、世代間のコミュニケーションの促進にある。社員旅行には、あらゆる年代の社員が参加する。旅行で普段話す機会のない年上の社員や役員等の偉い人との接点ができれば、社内の風通しもよくなる。

 社員が一斉に休むわけにはいかないため、旅行は4回に分けて実施された。新入社員を始めとする若手で構成された実行委員会は4チームに分かれ、それぞれのプランを練る。社員は、自分の休みの都合等も勘案しつつ、自分が最も行きたいと思うプランを選ぶ仕組みだ。

 会社支給の旅費は1人3万円。旅行代金はこれを超えても構わないが、高すぎると参加者が集まらなくなる。老舗ホテルならではのコネクションなどを使って、旅行代金を引き下げるといった「交渉」も行い、各チームできるだけ旅費を抑えるようにした。

 こうして出来上がったプランは4つ。「グアムマラソン弾丸ツアー」「大阪2泊3日ツアー」「加賀屋に泊まって金沢観光を楽しむ1泊2日」「台湾2泊3日」。どのプランも好評で、人数の偏りはそれほどなかったという。

龍名館では新入社員が中心に社員旅行を企画。これは大阪2泊3日ツアーの写真
龍名館では新入社員が中心に社員旅行を企画。これは大阪2泊3日ツアーの写真

 研修を企画した龍名館のホテルレストラン事業部の水野豊取締役部長氏は、「若手社員は仕事の上では、どうしても最初は上からの指示に従って動かざるを得ない場面が多くなってしまう。研修を通じてプロジェクト立案の醍醐味を知ることで、仕事への意欲も湧くのではないかと考えた」と話す。

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