宇宙関連2法成立はスタート地点

──具体的にはどのようなシーンで法律などの実務家の知見が必要になってくるのでしょう。

新谷:ロケット打ち上げ契約や衛星の売買契約など、宇宙関連のビジネスを進めるにあたっては、宇宙産業特有の業界標準や交渉のポイントが極めて重要です。こうした面を知らないと、結果的に何らかのトラブルが生じてしまった時に、予期しなかった損失を被るおそれがあります。

 具体的には打ち上げの失敗、衛星機器の不具合などが発生した場合のリスク負担です。一体どの段階で「打ち上げ」という債務を履行したことになるのか、衛星に関わるリスクはいつ買主に移転するのか、宇宙空間に出てしまった衛星に瑕疵担保責任はあるのか、簡単に言えばいつまで修理しなければならないのかなど、宇宙産業特有の議論が多数存在します。

 このような契約実務と宇宙保険を上手に組み合わせて、ぬかり無いようにしておかないと、下手をすると宇宙ベンチャーなどの経営規模だと、一発で会社が追い込まれかねないとの危機感を持つ必要があるでしょう。

 知財戦略でも、特許を取得するなどして公開して守るべき技術もあれば、出願による技術公開のリスクの方が高い場合には、手の内を明かさないでノウハウとして秘匿しておくべき技術もあります。宇宙技術の開発競争が激化している現状で、日本の宇宙産業にとって知財戦略は大変重要と言えます。

日本でも2016年11月に宇宙関連2法が成立しました。

新谷:民間の宇宙開発・利用を促進するには関連の法制度整備も欠かせません。日本でもようやく宇宙関連2法が成立しましたが、例えば米国では1984年に商業宇宙打ち上げ法が、フランスでは2008年にフランス宇宙活動法が制定されています。諸外国では民間の宇宙活動を規律する法律がすでにあって、産業振興のルール作りが進んでいます。これで日本もスタート地点に立つことができた状況です。

 宇宙関連2法のうち、宇宙活動法ではロケットの打ち上げや人工衛星の管理に許可制を導入することで安全確保に万全を期す一方、万が一の事故発生時に備えて損害賠償ルールを明確化したのが特徴です。

 企業の事業参入に対する予見性を高めるとともに、ロケット落下などの損害による第三者損害の賠償責任については、ロケット打ち上げ実施者に責任を集中することを規定しました。部品メーカーなどの関係者が第三者賠償責任のリスクから解放され、産業振興に役立つと期待されます。一方で、打ち上げ実施者には第三者賠償責任保険の手配を義務付け、保険で補填される限度額を超える事故が発生した場合には、一定限度額まで政府が補償することが定められています。

 もう一つのリモートセンシング法では、画像の悪用を防ぐルールが明確化されました。民間事業者がリモートセンシング画像を利用して様々な商品を考案したり、ビジネスのソリューションを見つけたりする可能性が開かれました。

法整備が後手に回れば企業の海外流出招く

今後の日本の宇宙産業の課題や見通しは?

新谷:日本では宇宙における資源探査や、有人宇宙飛行など人工衛星打ち上げ以外の法的枠組みがまだ整っていません。米国などでは民間企業から政府への働きかけも活発で、法的枠組みの整備にも余念なく取り組んでいます。

 法整備が遅れれば遅れるほど、こうした分野の宇宙ベンチャーは制度が整った海外に流出する恐れがあります。新規ビジネスを行う上で、現状の国際条約の枠組み、そして国内法の枠組みの中で実現可能なビジネスなのかどうか検討する際にも専門家の支援が役立ちます。

 宇宙関連産業の潜在的な成長性は極めて高いと言えます。日本は中小も含めて技術力の高いモノづくり企業が多くあります。資金調達の方法やビジネスモデルなどをしっかりと確立できれば、世界でも戦っていける宇宙技術が沢山あるとみています。日本も巻き返していく余地は十分にあると期待しています。