危機の中でまた起こった取締役のセクハラ発言

 二日後、ハフィントンの仕切りにより、サンフランシスコのマーケットストリートにある本社で社員集会が開かれ、取締役会の勧告やカラニックの休暇が発表された。カラニック不在のあいだは幹部14人の合議制とし、アプリにチップ機能を追加する、運転手支援事業を全面的に見直すなど、イメージ回復を狙う手だても講じる。

 ネスレ幹部のワン・リン・マルテロを独立の取締役に迎えることも発表された。未公開株ファンドTPGの共同創業者でウーバーの取締役会にも名前を連ねている74 歳のデビッド・ボンダーマンが、このとき、取締役会の女性が複数になるとおしゃべりが増えるだろうなと、ジェンダーをネタにした軽口を飛ばしたのは驚きとしか言いようがない。ボンダーマンは、この日、取締役を辞任する。

 この集会にカラニックの姿はなかった。だが、社員も取締役も、彼の存在をずっと感じていた。カラニックは、会社から距離を置こうとしなかった。いや、できなかったのかもしれない。

 休暇中のはずなのに、電話会議には参加する、データはチェックする、決定権は手放さない、経営幹部の空席に当てるべき人材を捜し回るという状態だった(関係者の証言による)。また、古参の出資者経由で聞いたところによると、ウーバーの財務チームは、だから安心してくれということなのか、会社はいまもカラニックが掌握していると、フィデリティなど、ウーバーに出資している大手ミューチュアルファンドに耳打ちしていたという。

 一応はカラニックなしで話をする場合にも、ハフィントンがカラニックのスパイや代理人として動いているのではないかと幹部も取締役も疑っていた。ハフィントンはホルダーレポートをどう社外に発表するかも細かくチェックしたし、このころはうるさがられるほどウーバーに入り浸りで、新たに立ち上げた健康関連の会社、スライブグローバルのためと思われるような提案をして回っていた。運転手の控え所にお昼寝ポッドを置いたらどうか、瞑想にいいブレスレットを運転手に配ったらどうかという具合だ。

 ウーバー幹部は、少しずつだが、トラビス・カラニックや彼が連れてきた人の呪縛から逃れることはできないのではないかと思うようになっていく。カラニックの行動はウーバーのためではなく、自分のためではないかとの疑いも浮上する。