シェアリングエコノミーの代表として、急成長を遂げてきた配車サービスのウーバーは、2017年に数々の試練に直面した。中でも、CEOだったトラビス・カラニックの失言、セクハラ報道などは大きな問題となった。シリコンバレーでも注目の成功企業を育てたトラビス・カラニックは、どうつまずいたのか。世界的ベストセラー『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』の著者、ブラッド・ストーンの新刊『UPSTARTS UberとAirbnbはケタ違いの成功をこう手に入れた』から、一部を抜粋して連載する。

UPSTART(アップスタート)とは、成功を収めた人物で、経験豊富な年長者や確立された手法をあまり尊重しない者のこと。そう、シリコンバレーの破壊者たちのことだ。シリコンバレーで最も注目を集めるウーバーとエアビーアンドビーの2社のこれまでとこれからを追った。

著者:ブラッド・ストーン
ブルームバーグニュースのシニアエグゼクティブエディター。ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』(日経BP社)の著者。15年以上にわたり、シリコンバレーについて報道してきた。カリフォルニア州サンフランシスコ在住。著者のウェブページは、http://www.brad-stone.com/

 ウーバーでは2017年、9カ月にわたり衝撃的な出来事が次々と明るみに出て、血なまぐさい内輪の争いが展開された。そして、新時代を象徴するスタートアップCEO、トラビス・カラニックの馘首(かくしゅ)へとつながるのだ。

ウーバーの共同創業者、トラビス・カラニックとは何者か(写真:ロイター/アフロ)
ウーバーの共同創業者、トラビス・カラニックとは何者か(写真:ロイター/アフロ)

 「話を単純化しすぎないように。『たくさんの要因が絡み合った嵐』としか言いようのない展開だと思うので」──カラニックに零落をもたらすさまざまな要因をどうまとめればいいのか苦労していたとき、ウーバーの古参幹部に言われた言葉だ。

 まず言えるのは、この年が始まるとき、ウーバー社内が混乱していたことだ。わずか7年ほどで、社員数1万5000人が世界数百都市に散るところまで成長した。財務、法務、人事などの部門を統括する幹部のなかに、これほどの規模の会社で担当部門を率いた経験のある人はいなかった(スーザン・ファウラーが採用された問題の年には、ツイッターの中間管理職だったレネー・アトウッドが人事部門を率いていたほどだ)。みな、五里霧中だったのだ。

好戦的すぎる組織

 カラニック自身の問題もある。ウーバーの歴史をふり返ればわかるように、カラニックは優れたアントレプレナーだ。技術や事業で問題に直面したとき、根本的なところまで掘り下げて解決することができる。必要であればリスクや対立も辞さない。大都市内の移動という昔からある頭痛の種について自由な発想ができる。

 だが、彼の欠点は会社の欠点でもある。遺伝であるかのように会社の血流に受け継がれているのだ。カラニックは、大企業の経営で実績をあげたリーダーの採用をずっと避けてきた。そういう人を入れると、官僚的で動きがにぶく、ゆっくりと失敗に引き込まれていく原因だと彼が考えるルール重視の意識がウーバーに浸透しかねないと思ったのかもしれない。

 だから、次から次へと危機に見舞われたとき、ウーバーには最高財務責任者もいなければ最高法務責任者もいない、エンジニアリング担当シニアバイスプレジデントもいないという状況だった。ヘッドハントを進めるとカラニックは折々語っていたし、実際、エンジニアリングについては、アミット・シンガルという元グーグル幹部が統括していた時期もある。ただし、彼は、セクハラ疑惑でグーグルを退社したことが判明し、わずか2週間でクビになっている。

 そんなわけで、ウーバーは、大会社らしい成熟度も物の見方も、規律も見あたらないままとなっていた。

 カラニックは競争心も強すぎる。運転手も利用客もスマートフォンに触るだけでライバルサービスが使える競争の激しい業界では、肘鉄を食らわせることも必要かもしれない。だが、カラニックは、まるで抜き身の日本刀のようだ。3月初旬、利用規約に違反したことのある利用客にはサービスを提供しないようにするプログラム、グレイボールをニューヨーク・タイムズ紙が報じたときのことを紹介しよう。記事によると、一部の都市や国ではグレイボールを使い、運転手に違反切符を切ったりサービスの停止をもくろんだりする恐れのあるタクシー監察官など法の執行官には配車しないようにしているという。

 ウーバー側は針小棒大にすぎると反論しているが、司法省が乗りだし、この章の執筆時点でも捜査が続いている。いずれにせよ、数十億ドル規模の世界的ブランドとなったいまでも、ウーバーが規制当局に反抗しつづけていること、CEOの好戦性を外に出してはばからない状態であることはまちがいない。

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