2018年1月、ソフトバンクグループがシェアリングエコノミー大手のウーバーに8000億円超の大型出資を完了、筆頭株主になった模様だ。ウーバーは2009年に創業し、世界各国のタクシー業界や規制機関と激しいバトルを繰り広げながらも、会社評価額は5兆円を超える規模にまでけた違いに成長した。ウーバーとは何か? ウーバーを大きくした前CEO、トラビス・カラニックは何をやってきたのか? 世界的ベストセラー『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』の著者、ブラッド・ストーンの新刊『UPSTARTS UberとAirbnbはケタ違いの成功をこう手に入れた』から、一部を抜粋して連載する。
UPSTART(アップスタート)とは、成功を収めた人物で、経験豊富な年長者や確立された手法をあまり尊重しない者のこと。そう、シリコンバレーの破壊者たちのことだ。シリコンバレーで最も注目を集めるウーバーとエアビーアンドビーの2社のこれまでとこれからを追った。
著者:ブラッド・ストーン ブルームバーグニュースのシニアエグゼクティブエディター。ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』(日経BP社)の著者。15年以上にわたり、シリコンバレーについて報道してきた。カリフォルニア州サンフランシスコ在住。著者のウェブページは、http://www.brad-stone.com/
トラビス・カラニックにとってウーバーは、単なる割のいい投資チャンスや早い段階からさい先のよい成果が上がった有望なスタートアップという以上のものだった。2011年の頭に友人や仲間に本人が語っているのだが、この会社は情熱をかきたててくれるもの、起業家人生で求めつづけてきた宝石なのだ。だから全力を傾けたいと考えていたし、社員にも同じように一生懸命働いてほしいと考えていた。また、サンフランシスコという枠を越えて成長し、世界を席巻するというウーバーの未来に差し障りがあるかもしれないと思った人物とは正面から対決するし、必要ならクビにもする。

ウーバーが世界展開に向けて最初に狙ったのは、ニューヨーク市。米国タクシー需要の半分が集中する街だ。カラニックの故郷、ロサンゼルスは街が無秩序に広がり、車なしでは生活できないことからフリーウェイが慢性的に渋滞しているが、それと対照的に、ビッグアップルとも呼ばれるニューヨーク市は人口密度が米国随一と高く、車の所有率が低い。ここでも成功できれば、おそらくは、世界中、どの街でも成功できるはずだ。
ウーバーのニューヨーク進出を任されたのは、コーネル大学出身のマシュー・コックマンである。コックマンは大学3年生のとき、MESS(Moving Every Student Safely)エクスプレスというオンライン予約が可能な貸切バスを立ち上げた。飲酒運転を減らすのが狙いだ。事業は軌道に乗り、コックマンは、バスの最前列に座ってマイクを持ち、利用してくれた学生を楽しませたりもした。
卒業後、コックマンはニューヨークに移り、親から子にタクシー代をショートメッセージで送金できる会社を立ち上げた。コーネル大学があるイサカのタクシー会社と試験運用の話をつけ、開発はウガンダに発注。そして、この開発がうまくいかず事業の実現性にも不安を抱きはじめたころ、サンフランシスコのとある技術会議でウーバーについて知る。興味を引かれたコックマンは、メールで連絡し、喫茶店でウーバー共同創業者のライアン・グレイブスと会った。そして、コックマンの豊富な経験と若者らしい押しの強さに感銘を受けたグレイブスから、数週間後、他都市への進出を統括するウーバー初の事務所長になる気はないかとメールで打診を受けることになる。
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