英国の大学キングス・カレッジ・ロンドンによると、大気汚染を理由に命を落とす人は、ロンドン市内だけで毎年9500人近くに上ります。世界で見ると犠牲者の数はさらに増え、世界保健機関(WHO)は、2012年に世界中で約700万人が死亡したと報告しました。大気汚染は、今では世界最大の環境リスクと言って過言ではありません。ここに解決策を示すことが、今のダイソンの使命だと考えています。

 私自身、この問題には30年近く取り組んできました。1990年、まだダイソンを創業する前ですが、自動車の排気システムに取り付ける、粒子状物質を捕集するサイクロンフィルターの開発に着手しました。

ダイソン氏が90年に開発に着手した、ディーゼル車の排気ガスから有害物質を分離するサイクロンフィルター
ダイソン氏が90年に開発に着手した、ディーゼル車の排気ガスから有害物質を分離するサイクロンフィルター
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 サイクロンの原理は、掃除機に利用したものとほぼ同じです。きっかけは、偶然に目にした米国立労働安全衛生研究所の論文でした。ディーゼルエンジンの排気ガスが含む有害物質と、実験用のマウスやラットが早期に死亡することを関連付ける内容でした。後で分かったことですが、ガソリンエンジンも、同様の問題を抱えています。

 日々、何気なく自動車を利用することが、我々を死に至らしめる可能性がある。とても深刻な問題のはずですが、自動車メーカーを含め社会の関心はとても低かった。そこで、自分自身でその解決策を考えることにしたのです。

 サイクロンフィルターはその後、試作と検証を繰り返しながら、93年までには実用に耐え得るレベルになりました。当時、BBC(英国営放送)で試作品が紹介されて、それなりに話題にもなったのです。

 しかし、自動車業界の反応はとても薄いものでした。ディーゼルの排気ガスは環境にも人体にも大きな問題はないとし、我々が開発したフィルターの重要性について、どこも真剣にとりあってはくれませんでした。それでも諦めず、2000年まで開発を続けました。

 そうしている間に、欧州連合(EU)当局が「クリーンディーゼル」エンジンの採用を奨励するようになりました。ディーゼルが環境に与える影響は問題のないレベルであり、EUとしてクリーンディーゼルの普及に力を入れると。英国もEUの考えをそのまま取り入れ、ディーゼルエンジンは環境に優しいものとのイメージが広がりました。さすがに、プロジェクトを中断せざるを得ないという結論に至りました。

 ところがです。大気汚染の問題は一向に収束していません。先進国、途上国に関係なく、大都市は空気が汚染され、人々が苦しんでいます。問題を放置してきた大手自動車メーカーは、その責任を免れることはできません。

 決定的だったのは、15年に発覚した独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼルスキャンダルです。自動車メーカーは、大気汚染問題に正面から取り組むことなく、規制を巧みに回避してきたことが明らかになりました。信じられない背信行為を続けていたのです。

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