iPS細胞なら「病気の細胞」を再現できる

 「iPS細胞の登場によって、創薬研究は大きく変わった」。戸口田教授とともに研究を行ってきたCiRAの創薬エキスパート・太田章教授はそう話します。創薬の世界では、2003年にヒトの全遺伝子が解明されたのを機に、各製薬会社はゲノム情報のデータベースを活用して、病気の原因になる遺伝子がつくるたんぱく質の情報から薬をつくる、ゲノム創薬研究をスタートさせます。遺伝子解析によって、新しい薬を発見できる可能性が一気に広がったといいます。

 「それでも治療薬が見つからない病気はいまだにたくさんある。iPS細胞を使えば、難病の患者さんも救える可能性がある」と太田教授はいいます。

京都大学iPS細胞研究所制作の「幹細胞かるた」。最後で解説しています。

 最大の理由は、患者自身のiPS細胞から「病気の細胞」を再現できることにあります。患者の皮膚からiPS細胞をつくると、病気を引き起こす遺伝子はそのまま引き継がれるため、そのiPS細胞を分化誘導して成長させ、病気の状態をシャーレの中で再現できるのです。「病気の細胞」はたくさんつくることができるので、さまざまな薬の候補の化合物を入れて効果を確かめることが可能。変化があるもの、ないものをふるいにかける、いわゆるスクリーニングという方法を用いてあらゆる化合物を試し、そこから効果のある薬を見つけ出すというわけです。

 「iPS細胞は人の生体の中の細胞の状態と近いため、信頼性の高いスクリーニングができる」と太田教授。原因が分からない病気でも、患者のiPS細胞で「病気の細胞」を再現してスクリーニングすることで薬になり得る化合物を特定し、そこから病気の原因を探ることもできるといいます。そして、この方法なら、マウスなどの動物実験も減らすことができ、費用も時間も大幅に削減することが可能になるのです。