iPS細胞を使って、新しい薬が発見されているのをご存じですか? iPS細胞の登場で、再生医療と同様に薬をつくる創薬研究も急ピッチで進められています。iPS細胞が薬の開発にどのように役立つのか。今回は、iPS細胞による創薬研究の「いまココ!」をお伝えします。

iPS細胞を使って、筋肉の中に骨ができる難病「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」のメカニズムを解明し、治療薬の候補を特定した、と京都大学iPS細胞研究所(CiRA/サイラ)の戸口田淳也教授と池谷真准教授が発表したのは今年(2017年)の8月。年内にも治験(*)が始まるのではといわれていましたが、先日10月5日に、治験第1例目となる患者さんへ治療薬が処方され、いよいよ治験が始まったと話題になっています(←いまココ!)。iPS細胞から発見された治療薬候補を用いた治験は、世界初の試みといわれているのです。
治験に使う薬の名前は、「ラパリムス(別名:ラパマイシン)」。新薬ではなく、既にリンパ脈管筋腫症の治療用に使われている薬です。戸口田教授のチームは、FOPという病気で骨ができる症状を抑えるのに、このラパリムスが効果的だという可能性を見い出しました。
わずか7年で難病FOPの薬を発見!
「進行性骨化性線維異形成症(FOP)というのは遺伝子が原因の病気で、筋肉や靭帯の中に骨ができてしまう非常にまれな病気。あごの筋肉に骨ができてご飯が食べられなくなったり、肋骨のまわりの筋肉に骨ができると胸が膨らまなくなって呼吸が障害されたり、亡くなるケースも多い」と、長年この病気を研究している戸口田教授は話します。200万人に1人の割合で発症する難病で、国内での患者は約80人とされています。
戸口田教授のチームは、2009年からFOP患者の体細胞からiPS細胞をつくり、その細胞からつくった病態を研究し、「アクチビンA」という物質が異常に働くことで、筋肉や靭帯など本来は骨ができてはいけない場所に骨ができるメカニズムを解明。iPS細胞からつくった細胞と数多くの薬となる化合物との反応を確かめる実験をくり返し、「ラパリムス」という物質に骨をつくるのを抑える働きがあることを突き止めました。研究開始から8年で薬が発見され、治験が始まったというわけです。
通常、製薬会社による一般的な薬の開発では、新しい薬をつくるためには、どんな薬をつくるかを考え、化合物を探し、もしくは合成し、効能を選別し、臨床試験をくり返す…という膨大なプロセスを要します。そのため、研究開発を始めてから薬が誕生するまで10~20年の歳月と数百億円、最近では数千億円の研究開発費がかかるといわれています。しかも、開発の過程では、マウスなどの動物で人の病気を再現して発症のメカニズムや薬の候補物質を特定しますが、マウスに効いても人では効果がない場合もあり、途中で開発を断念するケースも少なくありません。
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