2008年から始まったiPS細胞心筋シートの共同研究

 今、使われている筋芽細胞シートは、心臓の細胞ではなく、足の筋肉の細胞(筋芽細胞)を培養してシート状にしたもの。筋芽細胞から出る「サイトカイン」などの修復物質の力を借りて心臓の機能を回復させる、いわゆるサイトカイン療法()です。

 簡単にいえば、シート状の湿布薬と同じで、“薬”の効き目がなくなればシートの役目は終わってしまいます。筋芽細胞シートの細胞は移植後、数カ月で消えてなくなるため、それまでに機能が回復すればよいのですが、「重い心臓病の場合、サイトカイン療法では回復しなかったり、一時的に改善しても病気の進行が悪くなってしまうケースもある」と澤教授。

注釈
*サイトカイン療法:細胞が傷ついたり弱ると、それに反応してサイトカインという修復を促すたんぱく質を出す、人間の体に備わった修復機能を用いた治療法のこと。

 iPS細胞からできた心筋細胞(心臓の細胞)でシートがつくれれば、文字通りの「心筋シート」で、心臓の細胞移植が可能になります。「弱って機能しなくなった細胞にとって代わり、心臓の一部となって拍動して、心臓の機能を回復することができるのではないか」と思い立った澤教授は、2007年11月、iPS細胞の樹立を発表した京都大学の山中伸弥教授にコンタクトを取り、2008年1月から共同研究が始まりました。

iPS細胞由来の心筋シートの移植手術
iPS細胞由来の心筋シートの移植手術
筋芽細胞シートの移植手術の手順はこちら。(イラスト/アイハラチグサ)
[画像のクリックで拡大表示]

次ページ がん化を防ぐという最大の難関をクリア