拒絶反応が少ないiPS細胞をつくり出す
そこで、4年前に京都大学iPS細胞研究所(CiRA/サイラ)でスタートしたのが、他人由来のiPS細胞を備蓄する「iPS細胞ストック」プロジェクト。血液型のように細胞にも免疫の型があり、型が合えば拒絶反応が少なく安全だと考えられるようになりました。そして、サイラでは、日本人の中にごくわずかにいる特殊なタイプの免疫を持つ人の細胞から拒絶反応が少ないiPS細胞をつくり出し、いつでも使えるように保存し始めているのです。
今回の手術では、その第三者のiPS細胞からつくられた網膜細胞が免疫の型が合う患者に移植されたというわけです。臨床研究の一例目として、iPS細胞にとっても再生医療にとっても大きな一歩といえるでしょう。今後2年以内に5例の移植を行い、移植の安全性や効果を確認する予定だといいます。実際に今回の移植が成功すれば、移植までの時間が大幅に短縮でき、コストも5分の1に抑えられると見られています。
同様に、他人由来のiPS細胞を使った臨床研究が年内にも始まるのでは、と期待されているのが心不全患者への心臓移植です。心不全患者の再生医療については、前回の記事でお伝えした通り、自分の足の筋肉の細胞(筋芽細胞)を培養してシート状にした「ハートシート」(テルモが製造)を移植する新しい治療法が始まったばかり。昨年(2016年)の8月に健康保険の適用になってから、大阪大学医学部の澤芳樹教授のもとで5件の移植がすでに行われています(2017年3月現在)。その一方で、次のステップといえるiPS細胞を使った「心筋シート」移植が実現化に向けて動き出しているのです。

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