ラベルに書かれている試薬名と容器が違う

 判明したのは昨年の11月。通常、iPS細胞を製造する際には、3種類の溶液がセットになっている「遺伝子導入試薬キット」というものが用いられ、そのうちの2種類の溶液のみを使用して、初期化遺伝子(何にでもなれる細胞の遺伝子)を血液細胞に導入するという。それを培養して、iPS細胞が作製されるのだ。そして、もう1つの溶液は、確認用の試薬で、iPS細胞作製の際には使用されないものだという。

 ところが、その確認用の試薬が、iPS細胞作製のための試薬と間違えて使われた可能性が浮上した。3種類の溶液はふた付きのチューブ状容器に入っているが、容器の形はそれぞれ異なる上、確認用の溶液のみふたの色が違う。さらに、CiRAの細胞調製施設内で使用する際には、管理のために独自のラベルが貼られ、二次元コードや試薬名、入荷日、使用期限、有効期限などが記入されていた。ところが、そのラベルに書かれている試薬名と容器のふたの色が異なるものが見つかり、ラベルを剥がしたところ、下から異なる試薬名のラベルが見つかったという。

 もしかしたらiPS細胞作製の際に、確認用の試薬が使われたのではないか──。この疑いを受け、CiRA内では、製造に関わった人たちへの聞き取り調査や監視カメラのデータ復旧など、原因究明のための作業が行われたが、最終的にどの段階でラベルの貼り違いが発生したのかを特定することはできなかったという。

つくられたiPS細胞には“間違い”の痕跡はないけれど…

 むむっ? 試薬を間違えた可能性があるということは、では、さい帯血からつくった細胞は、iPS細胞にはならなかったのではないか、という疑問がフトわいてくる。ところが、さい帯血由来のiPS細胞は、既に大学や企業の13機関23プロジェクトに提供されていた。問題発覚後、CiRAでは、試薬を間違えた「可能性」があるすべてのiPS細胞について検査を行ったという。「確認用の試薬に入っているGFP遺伝子が混入していないか、遺伝子の検査を行いましたが、検出されませんでした」とCiRA国際広報室の和田濱裕之さんは説明する。GFP遺伝子が混入していないということは、誤って確認用の試薬が使われた可能性は低いと考えられるが、それでもゼロとは言い切れないという。

 つまり、作製したiPS細胞を調べてみると、試薬を取り違えて使ったという証拠は見当たらなかった。だが、ラベルの貼り違えがあった以上、試薬の取り違えがないとは完全に否定できないため、さい帯血から作製したiPS細胞の提供を停止したというわけだ。なお、既に提供済みのiPS細胞の大半は、基礎研究用途のもの。臨床研究用途はごくわずかだが、こちらは使用そのものをストップした。そのため、臨床研究が遅れるケースも出ているというが、ヒトへの移植といった臨床応用はされていない。

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