先日、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が発表した「iPS細胞の提供、一部停止」という事態。何やら大ごとのようだが、例によって、具体的なことはよくわからない。何が起こったのだろうか。前回記事「再生医療ってなに? 未来はどう変わる?」でも触れた、現在、行われている再生医療に使うiPS細胞の備蓄(ストック)事業に関することのようだ。そこで今回は、急きょ予定を変更して、CiRAに聞いた詳細をお伝えする。

 1月23日に飛び込んできたのが、「iPS細胞の提供、一部停止」のニュース。記事を読むと、試薬を間違えた、安全性についてのリスクが否定できないので供給停止、などの文字が並ぶ。いったい何が起きたのか。少しドキドキしながら、急いで、京都大学iPS細胞研究所(CiRA/サイラ)の国際広報室に確認をとってみた。

iPS細胞研究所 研究棟外観(写真提供:京都大学iPS細胞研究所)
iPS細胞研究所 研究棟外観(写真提供:京都大学iPS細胞研究所)
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iPS細胞を作る過程で試薬を間違えた可能性!?

 前回の記事でも簡単に触れたが、CiRAでは2013年から「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」を進めている。iPS細胞は、失われた体の一部や機能そのものを回復させる、再生医療での利用が期待されている。再生させる臓器や組織の元となる「万能細胞」であるiPS細胞は、自分の細胞からつくるのが安心だが、長い月日と莫大なコストがかかってしまう。その問題を解決するために、他人の細胞からつくったiPS細胞をストックしておいて使おうという試みだ。

 実は、細胞にも血液型のように型があり、型が合えば他人由来のiPS細胞でも利用できるという。「免疫拒絶反応の起きにくい型」もあり、それを持つ人の細胞でつくったiPS細胞をストックしておけば、多くの患者の治療に使える。再生医療用iPS細胞ストックプロジェクトでは、ボランティアの細胞提供者を募り、その協力のもと、2017年度末までに日本人の3~5割程度をカバーできるiPS細胞ストックの備蓄を目指しているという。

 そして、既に、2015年8月には末梢血(血液)から作製したiPS細胞、その1年後の2016年8月にはさい帯血(赤ちゃんのへその緒の血液)から作製したiPS細胞の提供を開始していた。今回の発表では、後者のさい帯血からつくったiPS細胞に、本来使うべき試薬と異なる試薬が用いられた可能性があることが判明したという。

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