いま、注目を浴びている再生医療。たびたび新聞の見出しに踊る「iPS細胞で〇〇成功」という文字。でも、ちょっと難しすぎて実際に行われていることが、容易に理解できないというのが正直なところではないだろうか。筆者自身がそうだ。よくわからない。そこで、いま再生医療の現場にいる方々に直撃取材!「いまどこで、何が行われているのか」「いつ、何ができるようになるのか」など、再生医療の現状(文中に「⇐いまココ!」と示します)とそれぞれが目指す未来を聞いてみよう。
出典:「幹細胞かるた」 企画・制作:京都大学iPS細胞研究所、デザイン:大隅 英一郎(picto inc.)、イラスト:石津 雅和(FiTS)
第1回の今回は、再生医療について、まずは「基本的なことを知ろう」をテーマにお伝えしたい。「再生」という言葉を聞くと、「毛が生えるの?」「肌が若返るの?」「永遠の命が手に入るの?」と即、若返りや長寿を連想する人も多いはず。でも、その考えは早急すぎるようだ。
「そもそも再生医療とは、人体が持つ細胞や再生能力を利用して、病気を治す医療のこと」と、日本再生医療学会理事長の大阪大学大学院・澤芳樹教授は解説する。目的は、病気やケガで損なわれた臓器や組織を再生医療によって、正常な状態に回復させることだ。その結果、寿命が延びる人が増えるかもしれないし、火傷治療などのための皮膚や毛髪再生研究が、いつの日かアンチエイジングのために応用されるかもしれない。でも、再生医療はあくまでも病気の治療が目的であり、しかも、今はそのための研究や開発がスタートしたばかりだ。
失われた体の一部や機能、そのものを回復
人間には、足を失っても再生できるイモリのような能力は備わっていない。だから、ケガや病気で体の一部を失ったり、機能しなくなると、薬を飲んだり、それを補てんする医療機器や医療器材に頼らざるを得ない。心臓が機能しなくなればペースメーカーか心臓移植をするしかなく、腎臓が機能しなくなれば人工透析を行い、関節がすり減って歩けなくなれば人工関節を入れる。臓器移植は、拒絶反応や感染症のリスクがあり、「それ以前に日本ではドナー不足のために移植手術の機会は極端に少ない」と澤教授はいう。
再生医療が現実になれば、細胞や組織を再生させたもので、失われた体の一部や機能そのものを回復させることができる。医療機器や医療機材に頼る必要はなくなり、根治治療も可能になる──と、さまざまな研究が行われてきた。「患者さん自身の心臓の機能そのものを改善することができれば」と澤教授が取り組んできた“細胞シート”もそのひとつだ。手をこまねくばかりだった重い病さえ治すことができ、救えなかった命が救えるのではないかという、多くの医師や研究者たちの「希望」や「期待」がそこにあった。そして、その期待に応えるべく登場したのが京都大学の山中伸弥教授が見つけ出したiPS細胞だ。「iPS細胞は日本の再生医療を大きく変えた。ここから一気に研究が加速し始めた」と澤教授は振り返る。
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